21人が本棚に入れています
本棚に追加
/15ページ
「ここ、お邪魔していいかな?」
菜摘と浩美に、等しく笑顔を向ける。
「どうぞどうぞ」
ドクンと胸の鼓動を感じている菜摘を尻目に、浩美が、丸テーブルの空いている席を勧める。
「それじゃ」
座って布包みを開く彼の左手の薬指で、銀色の指輪が光る。
「愛妻弁当ですか?」
すかさず浩美が訊く。こういう会話は、彼女の方が慣れている。
「恐妻弁当だよ」
冗談を言って覗かせる白い歯に、清潔感が漂う。
「またまたぁ。評判ですよ、課長のお弁当」
「えっ、そうなの?じゃあ、みんなの査定、上げなきゃな」
2人のやり取りを、少し羨ましそうに眺めながら、
(いいなぁ……父以外の男の人と、こんな自然なやり取りなんて、私にはできない)
などと考えていると、浩美が急に菜摘を見て、
「そう言えば、課長の奥さんって、菜摘と同じ中学じゃなかったっけ?」
「え?そうなの?」
いきなりそう聞かれても、わかるはずもなく、疑問を疑問で返すと、
「ねぇ、課長。奥さん、鎌倉市のY中学ですよね?」
「おお、そうだよ」
「じゃあ、やっぱりそうだ。菜摘も知ってるんじゃない?Y中の絶世の美女って有名だったらしいから」
そもそも浩美がなぜそんなことまで知ってるのか不思議だが、情報ツウの浩美は、そう言って勝手に盛り上がっている。
(あぁ、その人なら、私より2学年上の人だ)
菜摘にも心当たりがあった。
最初のコメントを投稿しよう!