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「ここ、お邪魔していいかな?」 菜摘と浩美に、等しく笑顔を向ける。 「どうぞどうぞ」 ドクンと胸の鼓動を感じている菜摘を尻目に、浩美が、丸テーブルの空いている席を勧める。 「それじゃ」 座って布包みを開く彼の左手の薬指で、銀色の指輪が光る。 「愛妻弁当ですか?」 すかさず浩美が訊く。こういう会話は、彼女の方が慣れている。 「恐妻弁当だよ」  冗談を言って覗かせる白い歯に、清潔感が漂う。 「またまたぁ。評判ですよ、課長のお弁当」 「えっ、そうなの?じゃあ、みんなの査定、上げなきゃな」 2人のやり取りを、少し羨ましそうに眺めながら、 (いいなぁ……父以外の男の人と、こんな自然なやり取りなんて、私にはできない)  などと考えていると、浩美が急に菜摘を見て、 「そう言えば、課長の奥さんって、菜摘と同じ中学じゃなかったっけ?」 「え?そうなの?」  いきなりそう聞かれても、わかるはずもなく、疑問を疑問で返すと、 「ねぇ、課長。奥さん、鎌倉市のY中学ですよね?」 「おお、そうだよ」 「じゃあ、やっぱりそうだ。菜摘も知ってるんじゃない?Y中の絶世の美女って有名だったらしいから」  そもそも浩美がなぜそんなことまで知ってるのか不思議だが、情報ツウの浩美は、そう言って勝手に盛り上がっている。 (あぁ、その人なら、私より2学年上の人だ)  菜摘にも心当たりがあった。
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