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 中学の入学式の日だったか。新入生歓迎のコメントを、在校生代表で述べた人だ。  確か、山本周子(ちかこ)さん、って言ったかな。  色白で髪が長く、落ち着いていて、非の打ちどころのないような……。 (なんて綺麗な人……)  そう思った記憶がある。  しかも彼女の弟が、菜摘の同級生だった。  周太という、めっちゃ明るくて、クラスのムードメーカー的存在。  菜摘はなぜか周太に好かれ続け、告られてもいた。それも、毎年1回ずつ、計3回も。  その時はタイプじゃなくて、全部断っていたけれど、その後も普通に接してくれて、全然イヤな感じも残らなかった。  周太のことはさて置くとして……。 (美男・美女か……)  なんて思いながら、課長の顔をチラッと見た。 と、浩美のスマホに電話がかかってきた。彼女はそれを見るや、 「旦那からだわ」 ごめん、というように片手を上げ、食堂を出ていってしまった。 課長と2人だけが残り……。 (えーっ、どうする?私) 頭の中を、今流行りのドラマのタイトルが流れる。と、 「そうそう、小林さんって……」 彼が肉じゃがを箸で持ちながら話しかけてきてくれた。 ( 心配は杞憂に終わったか)  と思いきや、 「気配り上手だね」 いきなり褒められ、危うくむせそうになる。慌ててお茶を流し込み、 「いえ、そんなこと、ないです……」 彼の顔をまともに見られずに、擦れた声だけを返す。その間にも、頬がどんどん火照ってくる。 (社会人にもなって、恥ずかし過ぎ!) 唇をニュッと丸めながら、自分に突っ込みを入れていると、 「コピー機の用紙が少なくなったり、セロテープの予備が無いと見るや、補充したり……」 「……」 「この間なんか、掃除のおばさんが咳き込んでたら、アメあげてたでしょ。そういう、みんなが面倒がってやらないようなことをさり気なくやってる。優しいな、って」 (えっ、そんなところまで見ててくれたの?) 「ちょっとした気配りって、心に染みるんだよなぁ……ほら、今、コンプライアンスだ何だって、窮屈な世の中でしょ?」 「……はい。でも……」 彼のお弁当のおかずを見ながら、 「小暮課長は幸せ者ですよね」 舞い上がってしまって、頓珍漢な受け答えをしてしまう。
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