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クリスマスイブも金曜日だった。
一度あることは二度あると言う。また断られるかなと不安だったが、この日はひとまず大丈夫だった。
菜摘は一人、フレックスタイムを利用して、約束の5時に店の前に着いた。
すると、出先から直帰予定だった彼は、もう来て待っていた。
「大丈夫なんですか?イブなのに」
ときめく胸を必死に抑えながら訊く。
「ああ。妻も今日は友だちの家でクリスマス会やるから、早く帰って来てもいないからねって言われちゃって」
慶一は苦笑して見せた。
(……そういう理由なの?)
モヤっとして、
「私、埋め合わせですか?」
顔は笑って見せたが、若干トゲを感じたようで、
「先月はごめん。本当はきみと過ごしたかったんだ」
と彼は言った。
(どこまで本当なんだか……)
どうも先月のあの件以来、卑屈になってしまう。と言うか、妻でもない私が、そんなこと言える立場でもない。
(それはわかっているのだけれど……)
「おっ、来た来た。じゃ、乾杯しよう」
運ばれてきた赤ワインを、彼が、菜摘、そして自分の順にグラスに注ぐ。
2人はグラスを手に持つと、目で呼吸を合わせ、
「メリークリスマース」
声をそろえて、グラスを触れ合わせた。
カチン、と乾いた透き通る音がする。
小さく波打つ紫色のワインに口をつける。
静岡の夜の記憶が蘇り、気分が上がる。
「ごめんなさい、慶一さん」
そんな言葉が、自然と口に出た。
慶一も、やさしく微笑んで、
「俺こそ。すまなかったな」
そう言ってから、脇に置いた鞄の中から小さな箱を取り出して、
「はい」
と菜摘に差し出した。
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