1/2
前へ
/15ページ
次へ

 クリスマスイブも金曜日だった。  一度あることは二度あると言う。また断られるかなと不安だったが、この日はひとまず大丈夫だった。  菜摘は一人、フレックスタイムを利用して、約束の5時に店の前に着いた。  すると、出先から直帰予定だった彼は、もう来て待っていた。 「大丈夫なんですか?イブなのに」  ときめく胸を必死に抑えながら訊く。 「ああ。妻も今日は友だちの家でクリスマス会やるから、早く帰って来てもいないからねって言われちゃって」  慶一は苦笑して見せた。 (……そういう理由なの?)  モヤっとして、 「私、埋め合わせですか?」  顔は笑って見せたが、若干トゲを感じたようで、 「先月はごめん。本当はきみと過ごしたかったんだ」  と彼は言った。 (どこまで本当なんだか……)  どうも先月のあの件以来、卑屈になってしまう。と言うか、妻でもない私が、そんなこと言える立場でもない。 (それはわかっているのだけれど……) 「おっ、来た来た。じゃ、乾杯しよう」  運ばれてきた赤ワインを、彼が、菜摘、そして自分の順にグラスに注ぐ。  2人はグラスを手に持つと、目で呼吸を合わせ、 「メリークリスマース」  声をそろえて、グラスを触れ合わせた。  カチン、と乾いた透き通る音がする。  小さく波打つ紫色のワインに口をつける。  静岡の夜の記憶が蘇り、気分が上がる。 「ごめんなさい、慶一さん」  そんな言葉が、自然と口に出た。  慶一も、やさしく微笑んで、 「俺こそ。すまなかったな」  そう言ってから、脇に置いた鞄の中から小さな箱を取り出して、 「はい」  と菜摘に差し出した。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

21人が本棚に入れています
本棚に追加