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「いちばん好きなのは、君だ」
あなたはいつもそう言ってくれる。
なのに、いちばん一緒にいたい時に、いつだっていない。
だからそんな時、
(どうせ私は、2番目だから)
心の中でそっぽを向き、拗ねてみせる。
だけど、実際には、
「私もだよ」
なんて言いながら、微笑んで見せる。
(だって私は、本当にあなたのことがいちばん好きだから)
両親と妹1人。ごく普通の家庭で育った菜摘は、大学を出て民間企業に就職。
ランチでお喋りしたり、休日にお出かけする楽しい仲間もいた。
それだけで、十分満ち足りていた。
淡い片思いはしたけれど、恋愛は、ドラマや映画の中で、ヒロインになりきれば十分だった。
ところが、入社3年目の春……。
(私は変わってしまった。慶一さん、あなたと出会ってから)
「みなさん。はじめまして。本日付けで課長を拝命した、小暮慶一と申します」
爽やかでエネルギッシュな挨拶に、課内がざわつくのを感じた。
菜摘の胸の中でも、何かが動いた気がした。
35歳だと言う彼は、部下の誰に対しても分け隔てなく接してくれた。
そんな彼の指示を受ける度に、緊張とときめきを感じるようになった。
菜摘の部署は、女性が多かった。
ランチの時は、自ずといくつかのグループに分かれる。
彼は、日替わりでグループのランチに参加し、打ち解けようと努力してくれていた。
ある日。
菜摘は、仲良しの浩美と2人、社員食堂でランチをしていた。そこに、彼がやって来た。
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