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帰る日、俺は母にかなり早い時間に、バス停まで送ってもらった。
ユウキに挨拶できていないなぁ、困った。
でも、この夏の魔法は忘れないから良いんだ。
俺は自分の手の指にはまる、銀の指輪を見た。
バスが来る。
俺が乗り込もうとしたとき、ユウキは向こうから走って来た。
「お客さん、忘れ物のないように、確認してから乗ってくださいね」
運転手が気を利かせて待ってくれた。俺はお礼を述べると、ユウキの目をジッとみた。
ユウキは息を整えながら、俺にこう言った。
「この夏が、あの夏になっても、私の事を忘れないでくれますか!」
「うん。忘れないから、絶対」
俺とユウキは、グータッチをした。
その手の指には銀の指輪が、この夏を忘れないように、確かにはまっていた。
ユウキの手を振る姿が小さくなっていく。見送りには微笑んでいた。
ややあって、その名残りも消える。
俺はバスの席に座り込み、銀の指輪を逆手で押さえて、前を見たまま静かに泣いていた。
バスはこの町に、夏を残して走り出した。
また来年の夏、君に会えるように。
【END】
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