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すると、ユウキは難しい顔で俺の顔を見つめた。怒っていらっしゃるのか。
「怒っていないよ。ちゃんと忘れないで、帰って来たからね、3年ぶりに!」
「怒っているじゃないか」
俺はコップを机に置いた。
ユウキは俺の右手をそっと両手で包み込んだ。心配そうな顔をしている。
「私は看護学生になったんだ。だから、キョウくん、そんな疲れた顔していると分かっちゃうんだよ。ずっと向こうで無理していたんじゃない」
「そんなことッ!……」
驚いて声を荒らげるわりに、やっぱり言葉が続かない。
それより、俺はどうしてしまったんだろう。意識的に向こうでの生活を忘れようとしているようだ。
実際に心身ともに疲れているので、否定できなかったのかもしれない。
頑張って話そうとするが、魔法で記憶を消されたように、口が動かない。
ユウキは首を左右に振って、ダメっと優しく諭した。
「キョウくん、向こうで変わろうと急ぎ過ぎたんだよ。でも、この街は変わっていないよ。だからさ、夏の魔法であの頃に戻ろうよ」
「うーん、あぁ、悪くないかもなぁ」
あの頃は何をしても楽しかった。
真夏の日。2人で網をもって、虫を追いかけた。川で石を転がし、水辺の生き物を観察した。
バスケットボールも河川敷のコートでしたし、疲れたら家の庭で青いアイスをかじった。
でも、20歳という大学生同士でする遊びか、それ。
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