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「京一郎! おい、大丈夫かよ!」
作っていた甘い声でなく、青年の声がブラックアウトする視界で聞こえた。
そうだよな。
ユウキだって、もう大人の男性になっているんだ。
何だか、あの夏の魔法が解ける瞬間だとわかっていても、俺は目を閉じたまま、薄らと涙を流してしまう。
もう戻れないあの夏の日だと分かっている。今更、ふざけて、夏休みごっこをして大人げなかった。
都会に負けて帰って来ても、母やユウキは優しく迎えてくれる。
それだけが最後の砦で、心の支えだと、勝手に俺は思っていたんだ。
「魔法……解けるなよ……」
俺が俺でなくなってしまう。
暗闇をさまよっていても、どこに帰ればいいかわからなくなる。
それだけは怖い。
「大丈夫。君の帰る場所は、私が守っているからさ」
黒い闇の向こうから、優しい声が聞こえた。
俺を否定するわけでもなく、俺を昔の、あの頃のようにただ受け入れてくれた。
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