26人が本棚に入れています
本棚に追加
第1話 あの夏へ戻る道を越えて
バスが距離を走るにつれ、高い建物が無くなる。
トンネルを越えると、立派なものはこの高速道路くらいだ。
最後に通過した隣町の駅前も、仙台に比べれば広いものではない。
すでに夕方を越え、夜に差し掛かっていた。
だが、こっちも蒸し暑いな。
都会型のアルファルトから感じる暑さではなく、盆地という環境のせいか籠った暑さだ。
俺はコンビニで買ったペットボトルのお茶を一口飲んだ。もう冷たさはなく、流石に生温いな。
バスの車内アナウンスが、自動音声で、郷土の観光説明をしている。
誰かがボタンを押して、次の停留所で降りるようだ。
俺は背を丸くしてバスから降りた。
背筋を伸ばし、呼吸を整える。同じ空気か、これ。生温い田舎の空気なのに、向こうとは違う空気であると思えた。
「空気ってこんなに旨いんだな」
そんな感傷的な郷愁を感じていると、母親が車で迎えに来た。
おかえりモードが優しい母には感謝しかない。
声も余り出なかったが感謝は言えた。
泥のように疲れていた俺は、風呂に入って、飯を食って、昔の部屋に準備されていたベッドに倒れ込んだ。
せめて残っている夏の間だけは、何も出来ない自分の弱さを忘れたい。
最初のコメントを投稿しよう!