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豊かな緑を擁する大規模公園。烏の数の多いことは当然だ。しかし、この早朝にこれだけのざわめきを聞いたことは……。
アキは視線を上空へ投げた。―――と同時だった。
“ワァン!”
カラシの、高い音での吠え声が響いた。
彼は芝生を尻にし、
“ワァンワァン!”
普段まずもって聞くことのない、激しい咆哮を続けた。
視線は、芝生エリアの対岸に見えていた、子ども用レンタサイクルの小屋に、どうやら向けられている。
もちろん今は営業時間外。少し突きだしたカウンターの上の、横に広がる窓にもシャッターがおりており、コンクリート仕立ての建物には、これといって目的になるものはない。
“ウゥゥゥ……ウァワァンワァン!”
「カラシッ!」
突発した興奮を叱咤するが、唸りと咆哮は収まらない。
なんだというのか……。今まであの小屋など、気にしたこともなかったのに……。
新たな不審を抱いたアキは、仕方ないので抱きあげてここをゆきすぎようと、カラシに寄り、腰をかがめた。―――刹那、
“ワァン!”
いきなり脱兎のごとく駆けだしたカラシは、ロックしていた伸縮リードの持ち手を、アキの手から奪った。
「あっ!」
小型であっても、成犬の興奮時の力は、予想を超えていた。
「カラシッ!」
ピンと立っていた両耳はしかし、アキの思わず強まった声を受けつけなかった。
名前の由来である茶色がかった黄色の体毛は、瞬く間に小屋の裏へと消えた。
「なんなのよ、もう……」
自ずと出た言葉には、驚きと憤慨が混じった。
だが、小屋の隅からはみだしたまま動く気配のないリードの持ち手が、ひとまずの安堵をもたらした。逃走はしていない。
おとなしい性格の子なのに……。
こんなこと、一度たりともなかった……。
なにがあるっていうのよ、あの裏に……。
脳裡に羅列させたアキは、咄嗟に手に力が入らなかったのは、やはり歳のせいなのか……という焦燥も続け、リードに向かってアスファルトを横切った。
小屋の両サイドには、楠の大木が、長い距離に渡り等間隔で植栽されている。青々と繁らせている葉の密度の濃さで、その奥に広がる、甲子園の予選でも使用される球場の姿は、ほとんど覗けない。
低い位置から枝を広げているここの楠は、だから小屋の上部も緑で覆い、落ち葉の積もる土の地面にも、日中のほぼ、広く影をつくっている。
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