部長のギャップは果てしない

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「……もう」  新年会後、二人で部長のマンションに着いてもまだ、モヤモヤした気持ちがおさまらなかった。 「何怒ってるの」  部長はどこか子供をあやすような声で言う。 「だって部長、ギャップを皆に見せるから」  できれば部長のギャップは私だけの秘密にしていたかった。  そんなワガママを思ってしまう自分は、相当彼に溺れていると悟る。 「……俺のギャップ、そんなに良い?」  目を丸くさせる部長の質問に、深く頷く。 「良いです。ものすごく」  すると部長は、腕を組み首を傾げてぎゅっと目を瞑り、考え中のポーズをする。  それがまた可愛い。  そして『閃いた』というように目を開き、私に迫る。 「……今夜もたくさん鳴かせてやるから、こっち来いよ」 「ひゃー!」  頑張ってギャップを絞り出したんだろうか。  そう思うと可愛くて、愛しさが込み上げる。 「どうですか?」 「最高です!」  そんな脱力するやりとりを繰り返した後、咳払いして本題に入る。 「……部長、お話があります」  あらたまった言い方になってしまい、部長はみるみるうちに青ざめた。 「何!? 別れるなんて言わないで! 絶対別れない! 死んでも別れないから!」 「違いますよ」  両手でそっと部長の手を握り微笑む。 「私も、部長と一緒に暮らしたいです」  少し照れてしまったけど、きちんと伝えることができてホッとした。  これからも部長の傍にいたい。  できればより長く、よりたくさんの時間を共有したい。 「さくら……」  じわりと部長の目から涙が滲んだ。  そしてふわりと私を抱き締めてくれる。 「大切にするよ。末永く」  まるでプロポーズみたいで、胸がいっぱいになりクスリと笑った。 「私も、大切にします」  彼の背中に腕を回すと、すかさずベッドに押し倒される。 「じゃあ、ご両親に挨拶に行こうか」  やっぱり展開が早い部長に、私は再び笑った。
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