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「部長、飲んでますか?」
部長はほんわかした笑顔で答える。
「いえ。私はお酒に弱いんで、やめときます」
そう言って、可愛いピンク色のノンアルカクテルのグラスを上げる。
……ああ、癒される。
部長、お酒弱いんだ。
ふにゃっと笑う笑顔も可愛いし、ノンアルカクテルまで可愛すぎる。
実は私、部長のファンなんだよね。
仕事ができるのに威張らないし、いつも冷静に周りを見守っていて。
皆は部長のこと、優しすぎると言って軽視しているけど、私はそんな部長のことを尊敬している。
「東城さんはいつも頑張ってますね。自慢の社員ですよ」
「ありがとうございます!」
部長にそう言ってもらえると、何よりも嬉しい。
なんとしてもMVPを獲って、その笑顔を私だけのものに!
「でも、頑張りすぎちゃダメですよ。何事もほどほどにね。仕事もほどほど。お酒もほどほど」
「はい!」
……っもう何言っても可愛い。
これで今週の疲れも吹っ飛んだ。
部長には人を癒す力があるみたい。
彼の隣に居ると心地良くて、時間も忘れてしまいそう。
「……大丈夫ですか? 東城さん」
「全然大丈夫です!」
部長に助言を貰ったのに、ついつい飲み過ぎてしまった。
部長の笑顔を見ながらのお酒は美味しくて。
でも大丈夫。
お酒に強いことだけが、私の長所だから。
「そろそろ帰りましょうか」
宴会もお開きとなり、居酒屋から出た時。
「東城さん、○○方面ですよね? 俺も同じなんで、一緒にタクシー乗りましょ」
森岡くんに呼び止められ、またもやギクッとする。
なんて断ろうか。
用心しすぎかもしれないけど、このまま家に押しかけられでもしたら……。
「送りますよ」
「あの、大丈……」
「僕も一緒に乗ってもいいですかー?」
「部長!」
神のような一声だ。
助かった。部長が一緒なら安心。
「是非!」
「……えー……。でも部長、そっち方向でしたっけ?」
「いいじゃないですか。たまには森岡くんともお話したいんですよぉ」
「……えー……」
「是非! 是非! 是非!」
渋る森岡くんを強引に助手席に乗せ、後部座席に部長と並んで乗り込む。
ほんわか優しい笑みを浮かべる部長の隣なら安心だ。
三人で健全な会話を楽しんで、無事に家まで辿り着いた。
「じゃあ、東城さん、ゆっくり休むんですよー」
「はい、ありがとうございます」
手を振る部長に顔をだらしなく緩め頭を下げる。
結局タクシー代も全て部長がもってくれて、やっぱり神だ。
森岡くんはふて腐れながら部長を睨んでいた。
「来週のプレゼン、頑張りましょうね」
そうだ。来週、部長と一緒の大きなプレゼン案件が入っている。
気合いを入れて臨まなきゃ!
「はい! お願いします!」
走り出すタクシーの中から、ニッコリ笑う部長。
その笑顔を目に焼きつけて、上機嫌でマンションへ入った。
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