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────そして週明け。
「やば、プレゼンの資料まとめないと」
部長と一緒のプレゼンだから、特にこだわってブラッシュアップさせたい。
だけど師走の忙しさ。
他に優先しないといけない仕事も山積みだ。
「よかったら私やりましょうか?」
女神のような真鍋ちゃんの一言に、顔を上げる。
「真鍋ちゃーん」
信頼している彼女なら、資料をより良質なものに仕上げてくれるはず。
「ありがとう! お願い!」
「任せてください!」
頼もしく微笑む彼女が、眩しく見えたのに。
────なんで。
「……どういうことですか?」
クライアント達が、揃って冷ややかな視線を向ける。
プレゼン当日、私はピンチの渦中に立たされていた。
「申し訳ありません……」
プロジェクターから映し出されたのは、私の顔写真が合成された水着の女性の画像。
私が何日もかけて作った資料ではない。
……やられた。
真鍋ちゃんの笑顔を思い出し、ゾッと背筋が凍りつく。
「申し訳ありません! すぐに資料を」
一人の女性が立ち上がり厳しい表情で私を見つめる。
「私達を馬鹿にしているんですか? こんな画像映すなんて」
「申し訳ありません! 手違いで」
「手違いってなんですか。……ちょっと、三神さん。おたくの社員どうなんですか? こんな初歩的なミスをするなんて。どういう教育をなさってるんですか」
「申し訳ありません」
女性に詰め寄られ、頭を下げる部長の姿に胸が抉られる思いだった。
私にとって一番の苦痛だ。
尊敬する部長の顔に泥を塗るなんて。
きっと失望された。
期待してくれていたのに。
悔しくて、情けなくて、唇を噛んだその時。
「申し訳ありません。……ですが、うちの東城は優秀な社員です」
…………部長?
「はあ!?」
女性に向かって真っ直ぐに言う部長に目を見開く。
いつものにこやかな糸目じゃなくて、凛々しい眼差しを浮かべ毅然として女性を見つめている。
「全ての責任は私にあります」
私のことを庇ってくれた。
こんな、あり得ないようなミスを犯してしまったのに。
「申し訳ありませんが、口頭でご説明いたします」
三神部長は堂々と、そして丁寧に、私が作った資料の隅々までを口頭でプレゼンし始めた。
まさか、全てが頭に入っているなんて。
それに、プレゼンの仕方が圧倒的に上手い。
言葉選びや抑揚、どれをとっても説得力とスピード感がある。
誰もが黙って、夢中になって耳を傾けてしまうほど。
「東城さん、前年比についてご説明を」
「はい!」
部長の雰囲気に感化され、私も落ち着きを取り戻し普段通り話すことができた。
あんなに必死になって作った資料、私も頭に入っている。
いかに口頭でわかりやすく伝えるかを、部長を見習って注意しながらプレゼンを進める。
二人で説明を終えた頃には、拍手が響き渡った。
「素晴らしいコンビネーションですね。お見それしました」
「とてもわかりやすかったです。契約に問題はないかと」
好感触にホッと胸を撫で下ろす。
いつもの穏やかな笑顔に戻った部長を見た途端、胸が熱くなって涙腺が緩んだ。
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