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彼女の仕事ぶりや俺への対応を見ていると、損得勘定で動かない実直さや、裏表ないさっぱりとした性格が伝わる。
それは営業職の人間としては少しばかりクリアすぎる気もするが、そこが彼女の強みでもあるように感じた。
努力家でプロ意識が高いのに、どこか放っておけないような可愛げもあって。
とにかく、人間としての魅力に溢れている。
こんなにも人に興味を持つのは、生まれて初めてのことだった。
最初は、一人の人として惹かれているだけだと思った。
「東城さん、一緒に帰りましょ」
「森岡くん」
しかし、他の男に迫られている彼女を見ると、腹の中に焼きつくような嫉妬が芽生えてくる。
ハッキリと彼女に対しての恋愛感情に気づいたのは、初めて飲みに誘った夜だ。
いつもだったら、人前で酒を飲むことは避けているのに。
どうしてかその夜は、彼女とグラスを交わしたかった。
無意識に、彼女の前では心を解放したかったのかもしれない。
プレゼンに失敗したことを悔いて涙を流す彼女の姿に、猛烈な庇護欲と支配欲が募った。
こんな感情は今までに覚えがなく、困惑する。
不謹慎で下劣な気持ちだとは知りながらも、もっと彼女を知りたい、触れたいという欲に苦しんだ。
「このあと……時間ありますか?」
だから彼女が、俺の太腿にそっと手を置いた瞬間、理性のタガが外れてしまった。
「黙って俺に懐柔されなさい」
ベッドの中で、そんな言葉を口走る自分に驚く。
彼女を前にすると自分が抑えられない。
欲望のまま、身体の隅々まで堪能して、激しく攻めたてたくなる衝動にかられる。
俺の腕の中で無防備に乱れ、可愛い声で鳴く彼女に、深い快楽と充足感を得る。
それは今までの人生で味わったことのないような幸福だった。
その夜から、もう頭の中は彼女のことでいっぱいで。
彼女を自分のものにしてしまいたい。
俺のことしか見えなくなるように、考えられなくなるように。
気持ちがどんどんエスカレートして、曖昧な関係は交際に、交際したら結婚へと、執着心は増していく一方だった。
────「そういうわけで、俺はさくらにゾッコンなんだ」
指を絡め口づけると、また彼女の肌は愛らしく赤らんでいく。
初めて知った感情と幸福。
もう絶対に手放したりしない。
「だからもう、離さないから」
一度執着したら死ぬまでその熱は冷めそうにない。
そんな自分にゾッとするような、彼女に申し訳ない気持ちにもなりながら、その喜びを噛みしめるのだった。
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