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────「部長、東城さん、おめでとー!」
真鍋ちゃんのかけ声で、乾杯が始まる。
居酒屋での新年会は、何故か私達のお祝いと化してしまった。
別に結婚を発表したわけでもないのに。
部長はいつも通り可愛いノンアルコールカクテルをちびちび飲みながら、ニコニコ笑っていた。
「しかし、あの時の部長カッコ良かったなぁー」
「ねー! ギャップ半端ない」
「“俺が愛してるのは東城さんだけですから!” きゃー!」
よってたかってイジる皆に、私は顔が熱くなるばかりだけど、当の本人は全く動じずに涼しい顔をしている。
「ねえ部長、今日もギャップ見せてくださいよ!」
「えー? なんのことですかー?」
目尻を下げて笑う部長。
このギャップ、天然なのか確信犯なのか未だにわからない。
「今日はお祝いなんで、部長も飲みましょうよ」
「そうですか? じゃあ一杯だけ」
「だめです!」
必死に止める私を皆は笑った。
「早速鬼嫁ですか、東城さーん」
「部長、尻に敷かれちゃってますよ」
なんとでも言えばいい。
お酒に酔った時のセクシー部長は、私だけが知っていたいんだ!
「東城さんも飲んでないじゃないですか。ほら、ビール」
森岡くんが隣に座り、瓶ビールを傾けるので、思わずグラスを手に取る。
「……だめだよ。さくらの酔ってるとこは他の男に見せたくない」
急に真顔になる部長に、お座敷は一瞬しんとして、すぐに歓声が響いた。
「ギャップきたー!」
「きゃー!」
「確かにこの部長は刺さるわ」
突然豹変する部長を恍惚として見つめる女性達に、嫉妬がメラメラと沸き起こる。
「やっぱり飲みます!」
「だめだって」
「ギャップきたー!」
「カッコ良い!」
このエンドレスループで、新年会は終わった。
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