エピローグだけの物語

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 記憶の中にしか存在しない人がいる。名前もわからない。見た目もぼやけている。だが、性別は異性だった。  その人と海に行ったとき、かき氷を買ってもらった。私はイチゴをその人はレモンを食べていた。 「なんでレモンにしたの?」私は訊ねた。特に意味のない質問だ。本音はそっちも美味しそうだね、ちょっとちょうだい、だった。 「なんでだろうね? わかんないや」 「わかんないのに、レモンにしたの?」 「うん。別になんでもよかったんだよ」 「変なの」 「○○ちゃんはなんでイチゴにしたの?」 「イチゴ好きだもん」 「そうなんだ。いいね、それ」 「うん」  私は溶けたかき氷をストローで吸った。海と汗が混じった匂いがした。  
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