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Step 4 High Cacao, but Sweet, Sweet Chocolate
ホイップとミントで美しく飾られたココットの面にスプーンを入れると、パリンとカラメルが割れた。
匠がこちらを見ている視線にどぎまぎしながら、響子は震える生地をそっと口に運ぶ。
「ん……っ」
まだ熱を帯びた生地が舌に触れた途端、響子は口を押さえて固まった。そしてそのまま、目を丸く見開いたまま動かない。
「味、好きじゃなかった?」
響子はふるふる首を振り、ん、と生地を飲み込んだ。
「……っこれっ、すごい……すごく美味しい……!」
「そう?」
「うん!」
ぽす、と匠は背もたれに背を預け、良かった、と呟いた。
それを見ていた響子の手から、するりとスプーンが落ちる。
「何やってんだよ、大丈夫か?」
「あっ、ごめん」
——だって、だってたくちゃん、すごくあったかく笑うんだもの……
ココットに添えた手が皿の温度よりもどんどん熱くなる気がするのに何故だか焦って、響子は慌てて声を大きくした。
「すごい幸せな味! たくちゃん絶対、大人気のパティシェになるよ!」
「ショコラティエ」
「え?」
コーヒーを一口飲み、匠が繰り返す。
「ショコラティエになりたいんだ。自分の店を持つくらいの」
——ショコラティエ。普段素っ気ないのに、あんなに甘い顔するたくちゃんにぴったりだ。
「私たくちゃんのショコラ、一生、ずっと一番に食べたい……」
ふと溢れた響子の言葉に、匠の顔が固まった。しかしすぐ、口に手を当ててぷっと吹き出す。
「ははっ食い意地張ってんな」
可笑しそうに笑う匠はやはりいつものクールな匠とは違う。二口目を掬う響子に向けられた瞳が柔らかに微笑み、ショコラより先にこっちが溶けそうだ。
——たくちゃんのショコラは大人気になって欲しいけど、たくちゃんのこの顔は、知られたくないなぁ……
あれ? と、また顔が熱くなる。
「いいよ。響子、一生試食役な」
匠がふわりと微笑んだ。
チクタク回る時計の針に、とくとく、鼓動がシンクロする。
ほろ苦く、それでいて甘いショコラの香りが、響子を包んで離さない。
Fin♡
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