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その日は、アーリス管弦楽団による、ベートーヴェン交響曲の全曲チクルスがあった。アーリス管弦楽団は、西暦2292年に作られた楽団で、今年で創立100周年。あの日のコンサートは、記念コンサートだった。あいにく僕らはコンサートには、行けなかったけどね。地球時間、2392年、9月23日、月にある地球軍基地から、惑星間ミサイルが2個発射された。
ミサイルの1つは、グセフの近くに着弾した。幸にも人間居住区には落ちることはなかった。地球側は誤発射だとしたが、25時間後に、宣戦布告という通知が火星側に送られた。地球側は否定したが、火星側は、宣戦布告と見做し、月火間での武力衝突が、今、行われようとしていた。
「待ってくれ、あまりにも軽薄じゃないか?」
「決めるのは人間じゃない、ローズさ。」
「なんだい…そりゃ。」
「人工知能だよ、人間に最も近い人工知能……。ヴォールはそう言っていた。僕にこんな運命を与えたのも、彼さ。月に1度、ヴォールは僕たちの目の前で、運命の紡ぎ車を動かした。それが、"僕ら"の辿る道だった。其れなのに彼が何処に居るのかも分からなかった。そりゃ分からないさ、彼は1世紀も前に、この世からおさらばしていたんだから。」
「なんだろうな…人間は苦労するね。」
「確実にね。」
「そうだ、お茶でも飲むかい?」
「お茶があるのか?何のお茶なんだ?」
「ケプラー産のハーブティーだよ。ハーブでは無いけどね。」
僕はオーリーの淹れたお茶を飲んだ。
「なんか、粉っぽくて、爽やかな感じ。」
「美味しだろ!」
お世辞にも美味しくはなかった…。
「レモンティーみたいで良いね!」
「それで、話の続きをしておくれよ。」
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