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第一章 禁忌
銀娟(ぎんいん)は車の後部座席に座り、スカートと共に足を揺らしていた。
窓の外を流れる景色は山紫水明の青々とした山に透き通るように美しい川。
川沿いには色とりどりのテントが雨の交差点に咲く傘のように咲いている。
銀娟は運転席の父、銀偉(ぎんうぇい)に話しかけた。助手席には誰もいない。空席である。
「爸爸! あそこがキャンプ場?」
銀偉は一瞬だけ川沿いに視線を移し、答えた。
「そうだよ。今日と明日とでお泊りするところだよ」
「ふーん」
銀娟一家はこれから一泊二日のキャンプへと行く道中であった。
このキャンプであるが、それぞれ家族を持つ五人兄弟彼らの家族全員参加の大規模なもので参加者は大人子ども全員で十名を超えた。
このキャンプが企画された理由は、銀偉が香港から日本への転勤が決まって引っ越すことになったため、五人兄弟の思い出作りのためである。
銀娟を乗せた車はキャンプ場に到着した。駐車場には見覚えのある車が三台、銀偉の他の兄弟は既にキャンプ場に到着しているのであった。
五家族それぞれが自家用車(私家車)でキャンプ場に来たのは、大人数の乗車が可能な巴士の免許証を五人兄弟全員が持っていなかったからである。
銀娟が車から降りると、一人の少女が車の元に駆けつけた。
「銀娟! 遅かったね!」
銀娟と少女は手を繋いた。少女の名は永渚(えーずぇい)、銀偉の二番目の兄の娘で、銀娟から見れば従姉妹の姉にあたる。女子高等学校に通う十六歳で、銀娟が憧れる「お姉さん」である。
銀娟は十二歳、初級中学への入学を控える年頃を迎えていた。
「お姉ちゃん!」
銀娟と永渚は手を繋ぎ、キャンプ場を駆けていく。辿り着いた先はキャンプ場の管理棟脇のテーブル。そこには少女が三人集まっていた。
皆、銀娟の従姉妹である。
永渚は皆に尋ねた。
「あれ? テントの設営手伝わなくていいの?」
「ああ、いいのいいの。あたしら子供は邪魔になるからって追い出されたの。ああいう力仕事は大人に任せとけばいいのよ」
そう答えたのは燕花(えんふぁ)。銀偉の一番目の兄の娘で、従姉妹達の中では最年長の十八歳、父がランタオ島のリゾートで成功し財を成して裕福であったことから蝶よ花よと育てられ小女帝気取りで素行があまりよくなく、銀娟からすれば「苦手で嫌いなお姉さん」である。
そこに二人の少女が割り込んできた。
「「そうよそうよ、あたし(あたち)達は女の子なんだからね! テントが出来るのをじっと待っていればいいのよ」」
そう言うのは玉梅(ぎょくめい)と玉桜(ぎょくおう)、銀偉の三番目の兄の娘で双子の十四歳、十二歳の銀娟とは歳も近く従姉妹と言うよりは友達感覚である。
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