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「その段ボールにはさ、俺が好きだったサッカー選手のユニフォームが入ってたんだよ。何ヶ月も前にテレビ番組の懸賞で応募したやつがたまたま当たって。それが届いたんだって」
「えー、なにそれ。凄いじゃん」
「凄いのは凄いけど、このタイミングか? とも思うじゃん。俺、その日レギュラーから外されてんだぜ? で、家に帰ってきたらユニフォーム当たってるとかさ、めちゃくちゃじゃん。悲しい気持ちと嬉しい気持ちが本当にぐちゃぐちゃになって」
「確かに」
「そんで、そんときに思ったんだよ。神さまって意地悪なんだなって。願いをちゃんと叶えてくれるわけじゃないんだなってさ」
「あははは、なるほど。それは確かに意地悪だ」
「だろ? 俺と同じこと思ってる奴がいてよかったよ」
「似た者同士ですから」
「誰だよお前」
笑い声が響く。風がフワッと流れた。屋上に吹く風は穏やかではあったが、少し肌寒くも感じた。今は何時だろう。鞄からスマホを取り出そうと下を向いてゴソゴソと中を探り、スマホを見つけ出す。時刻は午後八時を過ぎたばかり。そのとき、「あっ」という彼の声が聞こえた。顔を上げて彼を見ると、正面を向いて目をつぶったまま両手を合わせてなにかを祈っていた。
「え、なに?」
「流れ星。あの山の奥に今」
「流れ星? どこ?」
目を凝らしてビルとビルの間にある遠くの山の方を見てみるのだけれど、そんなものは一切見当たらない。夜空には多くのフライヤーがいて、発光体を身につけている。その光が輝いてはいるが、流れ星なんて見つからない。
「流れ星? 本当に? こんな都会の明るいところで見られる訳ないじゃん」
「本当だって。今光ったんだからさ。マジで」
「えー、なんか信じられないなぁ。それでなにかお願いしてたの?」
「そうそう」
「なにをお願いしたの?」
わたしの問いに、瞬次は意味深な笑みを含みながら答えた。
「内緒」
「えー、なにそれ。嘘なんでしょ? 流れ星なんて」
「嘘じゃないよ。それはマジ。でも、お願い事は言わない。だってさ、口に出したら意地悪されるだろ?」
「神さまに?」
「そうそう。ははは、だから言わない」
「ふーん、まあそれは、賢明だね。ふふふ」
「だろ?」
わたしたちは笑い合った。彼の言うことが本当だったのか、それとも嘘だったのか、それはどうでもよかったのかもしれない。瞬次といられるこの時間がわたしにとっては価値のあるものだった。
いつまでも、この場所で彼と同じ時間を過ごしたい。他になにもいらないから。
わたしは心の奥底で神さまにそう願っていたのかもしれない。意地悪な神さまに。
だから、終わったんだ。
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