屋上から見えた神さまは

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 午後七時を過ぎるともうすっかり辺りは暗くなっている。僕たちは会社を出て、近くのビルへと向かった。エレベーターに乗って最上階まで。そこからは階段で屋上へと向かう。扉を開けると、すでに多くの人たちが集まっていて、ざわざわと話し声が広がっていた。  スタッフからフライト用の装備品を渡され、ロッカーへ荷物を入れる。ヘルメット、ゴーグル、スマホを装着できるアームカバー、腕時計型の高度計、スニーカー。それら一式はフライトの際には必要なアイテムだった。もちろん、ヘルメットやアームカバーなどのアイテムには発光性があり、それらは夜間での飛行を安全に行うため必要不可欠なものである。  男性はジャケットを脱いで、ネクタイも外した状態の服装で問題はない。落下する可能性のあるものを持たないように気をつければ準備完了。  しかし女性は大変だ。まずスカートならパンツスタイルに履き替えなければならない。ピアスやアクセサリーもすべて外し、ヒールの人は必ずスニーカーに履き替える。それがルールだった。専用の更衣室での着替えを済ませると、いよいよフライトの始まり。 「えーみなさん。フライトは節度を持って、安全に。空の旅を楽しんでください。それでは、いってらっしゃい」  男性スタッフの声により、僕ら六人はふわりと空に浮かぶ。そのまま屋上よりも高い場所まで浮かび上がった。 「うわー、気持ちいい」  ゆっくりと空を飛んでいく。夜空から見下ろす街並みはキラキラと輝いていてとても綺麗だ。この感覚は何度味わっても消えることはない。  八階建てのビルの屋上から飛び立ったので、もう少しだけは高く上がれる。十階分の高さを超えて上に行ってしまうと、飛空警察に取り締まられる可能性がある。高度計を見ながらその辺りは慎重に行わなければならない。  剣持先輩は新人の女の子の手を取って、優しくエスコートしている。下心が丸見えだったが、僕はなにも言わなかった。あまり飛行が慣れていない女性からすれば、こんなにもロマンチックな風景はない。キラキラとした街並みを見下ろしながら空を飛んでいく。空中デートも流行っていて、夜空にはカップルも多く見かける。  決して治安がいいとは言えないこの繁華街も、空から見れば美しい。ネオンが様々な色に光り、それは幻想的に映った。  やっぱり、フライトは夜に限る。昼間の爽快感も捨て難いのだけれど、夜は夜で最高だ。できることなら、もっともっと高く飛びたいところではある。誰もいない夜空から、星のように輝く街を見下ろしたい。でも、それは一部のライセンスを持った上級者だけだ。僕らのような一般フライヤーはこれが限界。ゆらゆらと綿毛が風に乗って流れていくように、空を駆けていく。  なにか特別にしたか、と問われても首を傾けてしまうぐらいに僕らはなにもしていない。ただただ、空を揺蕩(たゆた)うだけだった。それのなにが楽しいかはわからないが、時間はあっという間に過ぎていく。  二十分ほど空を意味もなく飛んでいたとき、剣持先輩がある提案をした。
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