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「そうなんだ。初めて知ったかも。あの子、常連客からも人気がある子だから、そんな一面あるなんてびっくりしてる」
「それじゃあ、わたしにだけなのかもしれない。もしかしてさ、その子、瞬次のこと好きなんじゃないかなって思ってて」
「いや、それはないって。だって妹みたいな子だぜ?」
「そう思ってるのは瞬次だけなんじゃない? その藍田さんはわたしに対して嫉妬してるのかも」
「そうなのかなぁ、わかんねーけど」
瞬次はいい意味で鈍感だった。
「ごめんね、こんな話。でも、ずっとモヤモヤしててさ」
「そっか。じゃあこれからお店はどうする?」
「考えたけど、あんまり行くのやめとこうかなって。わたし、『シェルジュ』好きだし、料理も美味しいし、行きたいのはやまやまなんだけど、でもそういう気持ちで行くのもなんか嫌だし。たぶんその子も嫌だと思うから」
「うーん、そうかー。それはもう、仕方ないのか」
「ごめんね」
わたしが謝ると彼は、「しゃーねーな」と言ってわたしの肩を寄せた。
「まあさ、この場所気に入ったし、それで許してやるか」
「偉そうに、ふふっ。でもなんかさ、神さまって意地悪だなって思う」
彼の肩に頭を乗せながらそんなことを話した。「意地悪?」
「うん。付き合う前にさ、一人でフライトしてたときがあってね、そんときに瞬次と一緒に夜景が見られますようにって空にお願いしたのよ」
「ふーん、雫にそんな可愛いとこあったんだな」
「おい」と言いながら彼の脇をつまんだ。
「やめろって」と笑いながら彼は体をくねらせる。
「願いは今みたいな感じでちゃんと叶えてくれたんだけど、それと引き換えに大好きな『シェルジュ』に行けなくなっちゃって。なんか交換条件みたいで意地悪だなって思ってさ。神さまのせいにするのはよくないのかもしれないけどね」
「ふふっ、なるほどな。いやでもさ、そうだよ。神さまが意地悪だって、やっぱりそうだよ。同じこと思ってる人がいてよかった」
「同じこと?」
わたしが彼の顔を見つめると、瞬次は説明をしてくれた。
「俺さ、子どもの頃一緒に住んでたばあちゃんから教えられたことがあってさ」
「うん」
「ばあちゃんがよく言ってたんだよ。『お空の星には神さまがいる。必死に頑張ってる人のことをちゃんと見てくれてるから』って」
「星には神さまが、か。素敵だね」
「当時さ、小学二年か三年生ぐらいかな。サッカー部に入ってたんだけど、全然レギュラーに選ばれなくてさ。なんとかレギュラーになりたいって思って必死になって毎日練習してたんだ。もちろん、空にお願いをするのも欠かさずに」
小さい頃の瞬次が頭の中に描かれる。窓を開けて空に祈っている場面がイメージできて、思わず笑みが溢れた。
「ふふっ、可愛い。それでどうなったの?」
「いやそれがさ、レギュラーが発表されたその日、俺は補欠だったんだよ。で、泣きながら家に帰った。神さまなんて全然当てになんねーじゃんって思いながら。そんで家の玄関を開けたんだよ。そしたらさ、廊下に段ボールが置いてあって、母親とばあちゃんがなんかすげー喜んでんだよ。俺のこと抱きしめて」
「え、なにがあったの?」
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