屋上から見えた神さまは

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◇ 「今日仕事終わりさ、飛びに行かね?」  いいすねー、と社員たちは賛同した。その流れに僕もついていく。男性社員は僕を含めて四人、新人の女の子も二人一緒に行くことに。  六人は会社を出て、ぞろぞろと施設へと向かう。単に飛ぶだけならどのビルでもいいのだろうが、トラブル回避のためには専門の業者が一番だ。最近のお気に入りは、『飛空観覧』である。テレビCMでも流れているあのフライヤー専門業者。免許を持った人、つまり『フライヤー』が空を飛ぶことを楽しむために利用する会社だ。 『空は自由である。しかし、ときに危険である』  このCMでの言葉は今や有名で、誰もが口にしてしまうほどキャッチーだった。  人が空を飛べるようになってもう二十年以上。法整備なども進んできて、人は免許さえあれば簡単に空を飛べる時代になった。  もちろん、飛べる高さやスピードには制限があって、その設定は細かく決められている。ライセンスを持たない一般フライヤーはビルの十階程度、三十メートルほどの高さまでが法定高度とされていた。スピードは時速十キロ。早歩きよりは速くて、自転車よりは少し遅い、そんなスピード。  空を飛ぶのはすべて脳内での感覚に頼っている。高く上がりたいと思えばどんどん上昇できるし、速く飛びたいと思えばアクセルを踏むようにスピードを上げることができる。  人には五感と言われる感覚が存在するが、第六感として発見されたのが『飛感(ひかん)』だ。鳥が空を自由に飛ぶように、人も宙を舞い、高く飛べるようになった。  イギリスの科学者が発見した脳の新しい機能だというが、このことをきっかけにして時代は大きく変わっていった。  飛空ビジネスが発達し、多くの企業がフライヤーのことを念頭に置いた商品を開発している。安全用のヘルメットや、腕に装着する高度計、絶対に脱げない靴や目元を守るゴーグルなど、それぞれの会社が飛空において必要なもののアイテムを販売していた。  それはオシャレなものから可愛らしいものまで幅広く。  飛空は娯楽とも関連しており、アクティビティとして楽しめる場所も増えてきた。専門知識を持ったインストラクターが安全性を意識しながら楽しい飛行方法をアドバイスしてくれたり、仲間内で楽しめるイベントを行ったりと人々はフライトを趣味の一つにしていた。  僕の勤める会社でもそんな人は多く、仕事終わりに『ふらっとフライト』なんてダジャレが流行るほどに。  夜のフライトは確かに気持ちがいい。夏の終わりの季節に飛ぶ夜空は格別だ。少し冷たい空気が肌を刺激し、爽快感に溢れる。バイクで風を切るあの感覚とはまた違った気持ちよさがあった。
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