屋上から見えた神さまは

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「初めて僕らが出会ったときのこと覚えてる?」 「うん。もちろん。鳴海くんが急に上から現れてさ、ビックリして持ってた缶ビール落としちゃったよね」 「そうそう。でも間一髪キャッチしたじゃん」 「いやいや、中身全部溢れたからね」 「そうだっけ? 覚えてないや」 「肝心なことはすぐ忘れる」 「ははは。でさ、そのとき一人で佇んでた月野さんを見て、本当に見惚れたんだ。大げさじゃなくて、それこそ天使みたいに思えて」 「ふーん。そうなんだー。ありがとう」  彼女は僕の胸元で軽くお辞儀をした。 「男の人ってさ、すぐ天使とか使いたがる?」 「え、なんで?」 「なんでもない。ふふふ。ねぇ、見て。綺麗」  そう言われて空を見る。  夜空には相変わらず多くのフライヤーたちがいて、星のように輝いて見えた。 「飛ぼう。わたし、飛びたい」  彼女は僕の手を握った。僕もそれに応える。決して離さないように強く強く。  僕がふわりと浮かび上がると、彼女もついてきた。それは、初めて月野さんと浮かび上がる瞬間だった。  やがてビルは小さくなっていき、さっきまで見ていた夜の景色とはまた違った一面を見ることができた。 「綺麗だろ? この街の夜景は、本当に綺麗なんだよ」 「そうだね。綺麗」  街には光の粒が広がっていた。ビルの明かりや車のライト、店が放つ照明だったり、フライヤーが纏う発光体だったり。色々な光でこの街は形成されている。いつ見ても、美しいと思えた。  遠くの方には山の稜線が薄っすらと見える。夜空に星は見えないけれど、僕の目には確かに映ったはずだ。  山の奥に一筋の光が、見えた気がした。
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