01. 落とし物は波乱の幕開け

12/16
前へ
/138ページ
次へ
 人生で初めての失恋を経験した翌日。  鞠はいつもより二本早い時間の電車に乗って通学中だった。  朝が弱くて遅い時間に飛び乗ることはあっても、早い時間の電車に乗ることなんて滅多にない。  それでも今日は、よっぽど北斗と同じ電車に乗りたくなかったのか、避けるように早起きが出来てしまった。  昨日よりも少し空いている車内は、鞠の心を表すように寂しい雰囲気を漂わせていて。  それがまた、抱えたばかりの傷心を抉ってくる。 (はあ、私のファーストキスはいつになるのやら……)  好きな人とのキスを夢見ていた鞠。  もっと早くに北斗へ告白をしていたら、今頃はその願望が現実になっていたのだろうか。  昨日目撃した北斗のキスの相手を、自分になり得た可能性で妄想してみては首を横に振るを繰り返す。 (多分、告白できたとしても北斗にとって私は、ずっと幼馴染のままだ)  一晩考えて、ようやくわかった。  七年も幼馴染として一緒にいたのに、恋愛に発展することのなかった自分たちの関係。  片方に恋愛感情が存在して、たとえその想いを届けられたとしても。  幼馴染の関係が覆されることはないと思った。 (今更気づくなんてね……)  この傷が癒えるまで、しばらくは勘付かれない程度に北斗との接触を避けなくては。  それが自分の身を守る手段であると考えた鞠は、電車に揺られながら降りる駅の到着を待った。
/138ページ

最初のコメントを投稿しよう!

186人が本棚に入れています
本棚に追加