188人が本棚に入れています
本棚に追加
強引にここまで連れてこられた鞠は、その間無言を貫いていた新に不安を覚えていた。
昨日の態度に対するお叱りか。
はたまた不細工な泣き顔への嫌味な感想でも述べられるのかと、心を震わせていた時。
「これ、三石さんのでしょ」
「あ、メモ帳……?」
「昨日拾い忘れていたよ」
差し出された目の前の花柄のメモ帳は紛れもなく鞠の物で。
ただこれを渡すためだけに声をかけられたんだとわかり、ホッとした。
静かにメモ帳を受け取って、すっかり安堵の表情を浮かべる鞠だったが。
大事なことに気がついた途端、一気に青ざめていく。
「ん? えと、あれ?」
「何?」
「一条くん、このメモ帳の中身って、見……見た?」
確か昨日の昼休みに、北斗への告白方法をメモ帳に書き出した。
その部分を捨てた記憶のない鞠は、まだこの中に記されていると確信していて。
恐る恐る新の顔に視線を向ける。
どうか「見ていない」と言って動いてほしかった、その口元は。
「“電話、メール……”」
「えっ」
「“好きな人とのファーストキスを実現させる”」
「っっ⁉︎」
「三石さんって、キス未経験なんだ?」
「〜〜!」
無表情で淡々と話す新の言葉に顔を真っ赤にした鞠は。
そんなこと書いたっけ?とメモ帳のページを乱暴にめくっていく。
すると、告白方法を書き出した最後に強調するように『願望』がメモ書きされていて。
そのあまりに恥ずかしい一文を書いた昨日の自分を恨んだ。
最初のコメントを投稿しよう!