01. 落とし物は波乱の幕開け

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01. 落とし物は波乱の幕開け

 カンカンカンカン……  ガタンガタンガタン……  線路の上を電車が勢いよく通過していき、踏切の警報音が止むと通行人と車を通せんぼしていた遮断桿が、ゆっくりと上がった。  通学通勤時間真っ只中の、お日様と緑の匂いが混じる空気が心地良い春空の下。  人々は忙しなく歩き出し、次の電車通過までの間に急いで車も行き交う。  その流れに合わせて線路を横断し駅に向かうのは、真新しい制服を身に纏った一人の女子高生。  紺のブレザーと首元には紅色リボン。  グレーのチェック柄スカートは校則違反のないよう膝丈を守るも、小走りするたびにふわりと揺れる。 (急げ急げー!)  一週間前に滝谷(たきたに)高校の生徒となった、三石(みついし)(まり)、十五歳は。  胸の内にずっとひた隠しにしていた恋心を抱えながら、そのお相手と同じ高校に通える喜びを噛み締めていた。  始まったばかりの高校生活と、少し大人へ近づいた自分にも期待は高まるが。  何より、好きな人とのファーストキスを子供の頃から夢見ていた鞠は。  近々、その恋のお相手に告白したいと思うようになっていた。    改札口を通過して駅のホームにたどり着くと、先に電車を待っていた長身の背中がすぐに見つけられた。 「北斗(ほくと)!」 「鞠、間に合ったな」 「うん、少し走ったけど……」  遺伝なのか、はたまた中学の時にバスケを始めたからなのか。  人混みから頭一つ飛び出たその長身は誰よりも目立ち、短髪も顔立ちも爽やかで。  学生鞄とは別に大きなスポーツバッグを肩から下げる、いかにも体育系な外見の西原(にしはら)北斗。  彼は鞠が小学三年生の時に転校してきて以降、ずっと一緒に過ごしている近所の幼馴染。  加えて、鞠が恋心に気づいてからの三年間、ずっと想い続けているお相手でもある。
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