01. 落とし物は波乱の幕開け

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 さすがは上り電車。座席は既に埋まっており、鞠と北斗は吊り革を掴み並んで立っていた。 「毎日同じ混み具合だね」 「まあ、五駅先の学校まで耐えるしかないな」 「結構腕疲れるんだよ」 「で? その俳優のようなイケメンは鞠的にどうなの?」 「え! どうってどういうこと⁉︎」  さらりと話を戻された上、探りを入れてきた北斗の質問に、鞠の心臓がドキリと鳴った。  ミーハーな話や、鞠の恋の話なんて積極的にしてきたことがないのに。  今日の北斗は何だか、他人の恋愛に興味を持っているような話しぶりだった。 「好きなタイプだとか、恋愛に発展する予感ねぇの?」 「な、ないよそんなの……」 「えーせっかくの高校生ライフなのに?」  鞠が好きなのは昔から北斗なのに、こんな台詞を平気な顔して胸に突き刺してくる。  何となく自分は、ただの幼馴染であることには気づいていた。  でもそれを少しでも脱したくて、近々告白をしようと決意したばかり。 「……それに(あらた)くん、常に誰かと一緒にいるし」 「まさか女子?」 「まあ、たまにクラスの男子も混じってるけど」 「もう下の名前で呼んでんの?」 「それはみんながそう呼ぶからつい、本人の前では苗字だよ」  教室では男女グループで固まっているのをよく見るけど、その中心には決まって新がいる。  そして廊下を歩いている時に、珍しく単独行動をしてると思いきや。  後ろをついてくる女子が日替わりで必ずいたりする。  入学早々、既に人気者の新に近づくなんてこと自体、平凡な鞠には縁のないこと。  それに、幼馴染の北斗以上に心を許せる異性なんていないし、と視線を落として自分の恋の行く末を案じた。 「でもほら、鞠の願望」 「え?」 「“好きな人とのファーストキス”が遂に、高校で叶うかもしれないじゃん?」  好きな人は目の前の北斗なのだから、夢見るファーストキスの条件は北斗が相手となることだ。  それを知らずに、幼馴染である鞠の願望が叶うことを応援してくれる北斗に対して。 「はは、どうかなー?」  ガタンゴトンと揺れる車内で、そう返事をするのが精一杯だった。
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