01. 落とし物は波乱の幕開け

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 それから別の高校へ進学した同級生の話や、部活の話をしているうちに。  滝谷高校前の駅に到着した二人は、電車を降りて徒歩五分の校舎に到着した。 「じゃあな鞠、頑張れよ」 「北斗もね」  生徒玄関で北斗と別れた鞠は、また一日が始まって間もないはずなのに疲れを感じていた。  鈍感な北斗の無神経な質問に苦しまされ、無理に微笑んでいた表情筋が既に怠い。  全ては自分がさっさと告白しなかったから。  それも痛いほどわかっているが、フラれた時のことを考えると慎重になるのも仕方ない。  しかし、鞠の“好きな人とのファーストキス”を叶えるためには。  北斗とそういう行為が許される関係にならなくてはいけないから。  ファーストキスはもちろん憧れている。  でも決して誰でも良いわけじゃない。  自分が心から“大好き”だと思えた男の子としか、この願望は叶わないのだ。  まずは告白方法を念入りに考えなくては、とやる気を呼び起こした鞠が急いで上履きを履いていると。  背後を通った生徒の腕に手が当たってしまった。 「ごめんなさ……⁉︎」 「おはよ、鞠ちゃん」 「お、はよ……一条くん」  振り向いて謝罪した相手があの“俳優のようなイケメン”こと、一条(いちじょう)(あらた)だっただけで、  鞠の心臓は口から飛び出る勢いだ。  挨拶を交わして直ぐに通り過ぎていく新の背中を見つめながら、  電車内で交わした北斗との会話を訂正する。 (一条くんが一人でいるところ、初めて見た)  常に取り巻きがいて、入学してから一度も話したことがなかった。  そんな新と一週間経った今、やっと一言挨拶を交わした事に妙な感動を覚えた鞠は。 (なんていうか、街中で芸能人を発見した感覚……)  未だ心臓の鼓動がやや早い鞠は、深呼吸をしたのち。  教室へと向かって歩きながら入学当時のことを思い出していた。
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