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8.法服
1か月後、おじさんの訃報が届いた。
身寄りのない死亡者として、自治体によって火葬されたらしい。
弁護士から連絡をもらったとき、「そうですか」としか言えなかった。
法令集や公判記録がぎっしり詰まった本棚が色あせて見えた。
赤にも青にもなれず、黒く染まるしかなかったおじさんの最期を思った。
私は法服を持って席を立ち、書記官室を横切って廊下に出た。書記官たちが私を見て不思議そうな顔をしていた。
「あなたも、生きるの、大変でしょう?」
看護師の言葉を思い出す。
有罪判決がひっくり返ることはない。裁きを与えたのは私だ。
だが、寂しかった。
誰もいない法廷に入ると、むっとする湿気と埃のにおいが肺に入った。
ふわりと法服をまとい、合掌した。
この静寂は、ぼくとおじさんだけの黒だった。
(了)
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