5人が本棚に入れています
本棚に追加
翌日、ジェームズは定時に起床した。しっかりとテールコートに着替え、ケルナー様の朝食の給仕をする。
食堂には温かなポタージュスープにふわりと焼けたパンの香りが漂う。
「ところで」
ケルナー様がジェームズを見た。普通、主人の方から使用人に声をかけることはご法度だ。ジェームズは思わずびくりと背筋を伸ばした。
「何か不手際がございましたでしょうか」
「いや、そんなことはない」
ケルナー様が新聞を広げる。
「旅先でヘンリー協会がオーストラリアでオパールの鉱山に出資しないかという話が出た。この屋敷でも若いのが数人、オパール掘りに行ったらしい。退職願いさえ出さなければ咎めるつもりはないがな」
ケルナー様は紅茶を一口飲んだ。
「わしはこれに出資すべきだろうか。屋敷が傾くほどではないが、一口1000ポンドとは大金だ。君の忌憚のない意見を聞きたい」
「確実に詐欺です」
ジェームズは即答した。
「オーストラリア産の土からオパールが沢山産出するならば、わざわざ穴など掘らずに土をそのまま山にすればいい。わざわざ穴を掘って、埋める必要はありません。おそらく、偽のオーストラリア産の土で埋めたのでしょう。小さなオパールを沢山しこんで。それにつられた下層民や投資家を、夢をつかむために偽のオパール掘りに参加させようという魂胆だと思います」
「む、そ、そうか。では出資は止めにしよう」
ケルナー様が厳しい表情をして、紅茶を飲み干した。
『決まった』
とジェームズは思った。ホームズばりの推理で、館の危機を救った。
最初のコメントを投稿しよう!