従僕たちの毎日

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 銀の皿を磨き上げた。  鏡のようなそれには、豊かな金髪碧眼の、ジェームズの顔が映った。しばらく前にはフットマンはかつらをかぶるのが常識だったが、今では廃止されている。服装が乱れてはいないかと全身を映してみる。しっかりと糊のきいたテイル・コートだ。フットマンたるもの、相応の品格と教養を持たねばならない。合格だな、と思った。 「腹減ったな。チョコレート、喰うか?」  バリーがふところからチョコレートの包を取り出し、茶色いかたまりを一つ、口の中に放り込んだ。 「ありがと。いただく」  ジェームズも一かけらもらい、食した。芳醇なカカオの香りと砂糖の絡みつくような甘さが広がり、疲れた脳を癒す。    メイドなら仕事中の菓子など言語道断。厳しく𠮟られるところだが、上級男性使用人には黙認されている。役得というべきか。  ジェームズは壁掛け時計を見る。昼の13時を回っていた。 「どうりで腹減るわけだわ。食事の時間だぞ」  使用人は主人と一緒のテーブルにつくことはない。ジェームズとバリーは使用人フロアの食堂へ向かった。  まだ18にも達していないだろう、少女と言ってよいキッチンメイドがローストビーフと熱々のパン、紅茶を運んでくる。  ローストビーフは主人の食卓での余りものだが、それを食べられるのは上級使用人だからだ。下級の使用人はせいぜい冷めたパンとベーコンだ。ジェームズも昔はそうだった。  食事後は休憩時間が与えられる。  ジェームズは雑誌をとりだし、「はあ」、とため息をついた。あの名探偵はやはり死んだのか。
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