従僕たちの毎日

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「お前、ホームズが死んでも『ストランド・マガジン』の購読者なんだな」  バリーがあきれたように言う。 「うるさい。ホームズは最高の物語だったんだよ」  ジェームズにとって、名探偵『シャーロック・ホームズ』物語は疲れた体を癒す最高の書物だった。5年前から連載の始まった短編に登場するホームズは、日々忙しく過ごす身にとって欠かせない、珠玉の物語だった。  読みこなすために字を覚え、彼に憧れて様々な勉学に打ち込めた。そのおかげで、今の地位があると言っても過言ではない。  魅力あふれる物語は、長くは続かなかった。  2年ほど連載が続いた後、『最後の事件』で我らがホームズは宿敵のモリーティ教授とともに、スイスのライヘンバッハの滝つぼに転落してしまったのだ。  その時の衝撃は、ジェームズにとって心の一部が削れるようであった。  衝撃と寂しさの後に、何で殺した、と怒りが湧いてきたものだ。あの当時は、作者のコナン・ドイルに抗議の手紙を書いたものだった。 「ところで、屋敷の裏で開発されていた大穴は何なんだろうな」  バリーがうなった。 「確かに、変だよな」  ジェームズは一か月前に休日に散歩したとき、近郊で身分の低そうな者が一心不乱に土地に穴を開けていたところを思い出した。
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