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郊外の大穴
それは良く晴れた穏やかな日だった。
ジェームズは主人の遠乗りの同伴の練習、といって馬番から1頭栗毛の馬を貸してもらい、館の近郊を乗馬しながら散歩した。
しばらくは牧歌的な風景が続いたが、ある土地に様々な身分の人が一心に作業をしているのを目撃し、衝撃を受けた。
周りに何もない土地。
そこを十人ばかりの男女が穴を掘り続けていた。
近づいてみると、穴は10フィート以上の深さに及んでいた。穴の周辺には、掘り出した赤茶けた砂や、黄色い粘土が積み上げられている。
「あの、すみません、ここで何をしているんですか」
ちょうど休憩中のように見える、リンゴをかじっている農夫と思われる人物に声をかけた。靴には土がこびりついている。
「見ての通り、穴掘ってんだよ」
それは見たままだ。分かる。
「その穴で何を?」
「さあ、ワシは知らん」
農夫は黄色い歯でリンゴをかじった。歯の着色は安いタバコを吸っているためだろう。敬愛するホームズはロンドン中のタバコの灰を分析できる。ジェームズは自分もそのレベルに達したく、相手の口の中を見るという悪癖が身についてしまったのだ。
「何をするかは知らねえが、とにかく一日中穴を掘れば1シリングもらえるんだ。ちょうどいい小遣い稼ぎさ」
確かロンドンで開かれた万国博覧会の入場料が1シリングと少しだったと思う。それを考えれば、かなりの収入だ。
「お兄さん、おいしいニシンのパイ、買ってくれよ」
浮浪者一歩手前の少年が会話に割って入り、カゴを見せた。
「仕方ないな、いくらだ?」
「一切れ3ペンス」
相場よりずいぶん高いな、と思いつつ、少年の境遇が哀れなので寄付のつもりで購入してやった。
一口かじる。意外とおいしかった。
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