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翌日はいい天気だった。空が晴れあがり、ブルーのペンキを塗ったようだ。窓からは洗濯ものの白いシーツがはためいている。窓を開ければ、焚きこんだラベンダーの香りがほのかに流れてくるようだ。ロンドンの煤煙の中ではこうはいかない。
「あの大穴について、変な記事が載っていたぜ」
休憩時間、バリーが『タイムズ』を差し出した。普段はご主人様が一番に読み、使用人にはおさがりが与えられるのだが、旅行中のため、早く手に入る。
ジェームズは同僚に指さされた広告欄を凝視した。
『穴掘り人募集。当方ハムステッド郊外にオーストラリアのオパール鉱脈を模した施設を作成した。いきなりオーストラリアに行くということは勇気のいることである。そこで、我々は予行演習場として鉱山を再現した。
オパールを掘りにオーストラリアに行こう。農民、下級仕事人に大チャンス。一生イギリスで人に頭を下げる仕事を続けるつもりか? 鉱山で宝石を掘り、長者になろうではないか。
なお、富裕な方にもチャンス。オーストラリアのオパール鉱山に出資する者も同時募集。利率は売上の一割。
詳しくはヘンリー協会まで 』
「変な求人だな。でも大穴の謎は解けたね。あそこにオーストラリアの土地を再現するために大穴を掘ったのか」
「確かになあ。お前、行く気はあるか?」
バリーが安いタバコに火をつけた。
「バカな。これだけ長年ケルナー様に仕えたんだ。俺は一生この屋敷に奉公するつもりだよ」
「そうだよなあ。真面目に勤め上げれば退職後、年金ももらえるんだ。オーストラリアで一山当てるよりも、じっくりと年金狙いだよな」
その話はここで打ち切りとなった。
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