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従僕たちの毎日
「ロンドンは今も煤煙に包まれているようだな」
ジェームズが窓にキスをするくらい顔を近づけて、ぼそっとつぶやいた。
「まさか。どんだけ視力があるんだよ」
同僚のフットマン、バリーが軽口をたたく。
バリーの言う通りだ。
主人であるケルナー男爵様はロンドン郊外にあるハムステッドに新居を構えた。機械化が進み、煤煙がけぶるロンドン中心部を嫌い、少し離れた地点に引っ越したのだ。
それが、今から7年前。まだバリーはフットマンではなく、ページボーイとして小間使いの少年であった。確か13歳の時だったと思い返す。
ハムステッドはロンドンまでの交通の便がいい。窓からは豊かな緑が見える。最近は新興のスクワイアやジェントリが大きな館を建てるが、しょせんは成り上がり者だ。ジェームズは200年以上の伝統を誇るケルナー様の従僕になれたことを誇りに思っている。
「手を動かせって。いくら晩餐会が無いとはいっても、食器磨きは必要だぞ」
バリーが小言を言う。
「そうだな。すまん」
ジェームズは窓の外から手元の銀の皿に目線を移した。軟らかな綿の布で鏡のようになるまで磨く。
普通の陶磁器の食器類はメイドが磨くが、銀器だけは熟練の男性使用人が磨く。メイドには少女が優先的に雇われるが、そこはうら若き少女。いくら推薦状があると言っても、いきなり豪奢な建物に移り住むと間違いを起こしやすい。要するに外に恋人を持ち、高価な銀器を手土産に消えることが多々あるのだ。
ジェームズは銀器磨きに初めて参加させてもらった時の喜びと誇りを今でも鮮明に覚えている。
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