もしも

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「失礼します」 ひと言そう言って部屋に入ると、対面式のソファーに、1人の女性が座っているのが見えました。 表情は俯き加減で伺い知れませんが、綺麗な着物を着ているのが解ります。 「さっ!鈴木くんも座りたまえ」 「はい、お言葉に甘えて」 僕が女性の対面に座ると、部長も、上座に座りました。 どうやら、この女性が僕の妻になる方の様です。 「鈴木くん、この女性は和泉遥(いずみ はるか)さん。ア○ア経済研究所所長さんのご息女だ」 「…」 女性…和泉さんは緊張しているのでしょうか? ひと言も発せず、身じろぎ1つしません。 ひょっとしたら僕以上に人見知りするタイプの方なのかも知れません。 「和泉さん、こちらは、鈴木航医師。まだ若いが腕は確かだよ。将来有望だ」 「恐れいります。宜しくお願いします」 僕は、そう言うと軽く頭を下げました。 「…」 和泉さんは、それでもピクリとも動きません。 声も出さないので、まるで放送事故の様です。 「あー、ゴホン!…和泉さんは少し人付き合いが苦手な方なんだ。後は若い2人にお任せするよ。婚姻届は此処に置いておくから」 見ると婚姻届には僕の印鑑を押せば、後は区役所に提出出来る様になっていました。 和泉さんは既に印鑑を押してあります。
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