もしも

3/10
21人が本棚に入れています
本棚に追加
/51ページ
少し意外な気もしましたが、それなら何故先程から固まっているままなのでしょう? 部長が退室してから、部屋の中は静寂に包まれました。 僕は印鑑を押すのを躊躇っていました。 結婚は気が進まないのは変わりありません。 それに、押したら最後、後には引けないという強迫観念もあります。 ですが、押さないと法律に反する事になるのは先に述べた通りです。 僕は震える手で、印鑑を押しました。 後は、明日にでも区役所に婚姻届を持って行くだけです。 ですが…。 「…」 「…」 僕と遥さんは、お互いに黙ったまま、時間だけが過ぎていきます。 遥さんが微動だにしない中、僕は何と話し掛けたら良いのかと考えていました。 対人交流に長けている山村先輩や、女性慣れしている千夜くんなら、上手い事を言って、この気まずい現状を打破するでしょう。 ですが、僕は香澄さんと茜さん以外の女性とは仕事上の必要事項以外、話したことがありませんでした。 今も上手い言葉が頭に浮かびません。 医学の研究をしている方が余程、簡単です。 1時間位、お互い黙ったままでいた時でした。 部屋のドアが勢いよく開き、部長が先程とは打って変わって緊迫した声で僕に言いました。 「鈴木くん!急患だ!直ぐに来てくれ!」
/51ページ

最初のコメントを投稿しよう!