もしも

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「はい!解りました!…遥さん、済みません。失礼します」 遥さんからは何の反応も有りませんでしたが、急いでいた僕は気にせずに部長の後に続き、部屋を出ました。 緊急手術のお陰で1命を取り留めた患者さんに、安心した僕は手術室を出ました。 長時間の手術だった為に、窓の外はもう夕闇に染まっています。 幾ら何でも、もう遥さんは帰ってしまったでしょう。 何故か安堵した僕に、又しても部長が声を掛けてきました。 「鈴木くん、ご苦労だったね。遥さんには先に帰ってもらったよ。それで、これ婚姻届。今日は祝日だから明日、提出だね」 と、完成した婚姻届を渡されました。 僕は一気に気が重くなりましたが、御礼を言って婚姻届を受け取りました。 仕事帰りです。 車を運転しながら僕は山村亭に行きたくなり、ハンドルを切りました。 山村亭とは、山村先輩ご夫妻と中居さん達が営む日本料理店です。 カウンター席とお座敷が幾つかあり、結構大きな料亭で、僕が勤める病院から近い事も有り手が空いている時は昼食を摂りに行ったりしています。 駐車場に車を停車した僕は引き戸を開けて暖簾をくぐりました。 「いらっしゃい!って、鈴木くん!」 元気の良い山村先輩の声が僕を出迎えてくれます。 奥さんの茜さんは、奥のお座敷の方にいるのか姿が見えません。 それから、もう1人。
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