もしも

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と、山村先輩の、食材を小刻みに切るトントントンという音を聞きながら、僕は持っていた鞄から部長から頂いた婚姻届を出しました。 「千夜くん…遂に来ました…」 「ん?…婚姻届か?そういやテレビで結婚が義務化されたって言っていたな。で、コレはどんな女なんだ?」 千夜くんはニヤリと笑って小指を立てました。 「どんなと言われましても…綺麗な着物を着ていた、としかお応え出来ません…」 「貴方!松定食3丁!…いらっしゃいませ、鈴木さん。綺麗な着物って女性が着物を着るのは大事な時だけよ?」 奥のお座敷から出て来た茜さんが僕に向かって、そう言いました。 どうやら、話が聞こえてきた様です。 「としか…って、他にもあるだろ?顔立ちや仕草、立ち居振る舞い、話し方…そこから大体の性格が見えてくるモンだぜ」 千夜くんは「あんたなら見抜けると思うけどな」と付け加えました。 しかし、遥さんのあの様子だと本当に他に応えようがないのです。 僕は遥さんといた1時間の沈黙の時を話しました。 「ガード硬いね。その人」 魚を捌きながら山村先輩が言いました。 「ガードが硬いっつーよりも…」 千夜くんは、そこまで言うとつまみを完食して、腕を組みました。 「その女、結婚したかねーんじゃねーか?」
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