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【Day8】秘密のつがい
「莉央! ここにいたのか」
橘が灯りを頼りに莉央たちのいる空間にたどり着いた。
「お前、莉央から離れろ!」
そう言って彼は張爺さんに殴りかかろうとして胸ぐらを掴んだ。洞窟内に潜む殺人鬼だと思っているのだ。――ある意味正解だが。
「おい、やめろ橘! その人は知り合いだ!」
「え――?」
◇
莉央と橘は簡易ベッドに、張爺さんはモニター前のパイプ椅子に腰掛けた。そして張爺さんに聞かされた話を橘にざっと説明する。
「ってわけでこの爺さんが俺を守るためにやったことだったんだ」
「なるほど――あなたが張さんでしたか」
「対面で会うのは初めてだね。橘くん」
橘は張爺さんからの依頼を受けてこの島に来たが、直接会ってはいなかったのだ。
「俺は警部が犯人なのかと少し疑ってたけど、彼は脅されていただけだったんだな」
橘は警部の様子がおかしいことに気付いていて、彼が犯人だと予想してたらしい。
「莉央の安全のため仕方がなかったんだ。最初の深山に関しては、どんな手を使ったのか前回の参加者のことを探るため不正に参加権を得た人間だった。この島から出るように取り計らおうとしたんだが、彼の方がナイフを出してきて揉み合いになってね」
(矢部は”トリ”を探してた――つまり前回ここに呼ばれたオメガを探してたってことか)
「あとの二人は間違いなくかごめの儀式で莉央を襲うだろうから――消すしかなかった。本当は岩崎も消すつもりだったが、君たちがここへたどり着いたお陰で彼は命拾いした」
すると橘がとんでもないことを言い出した。
「その儀式――実は映像を見ました」
「え! 映像を見たって、いつどこで!?」
「滝川社長が、以前見たフィルムに続きがあるのを発見したんだ。そこには、オメガを囲んで複数のアルファがぐるぐると回り、最後はオメガを襲っている映像が収められていた」
「ま、マジ……?」
(黒魔術の生け贄みたいじゃねーか)
莉央はその様子を想像してぞっとした。
「しかし、島全体に配信用のドローンやカメラが配備されていたとはね……」
橘は考え込む。莉央はカメラのことを言われてふと思いついた。
「なあ、ならいっそのことそれを逆手に取ってやればよくね?」
「――どういうことだ?」
「父さんや団体の奴らはこの俺がいつ誰に犯されるのかを舌舐めずりしながら画面の向こうで待ってるんだよな?」
そう言われて橘は不快そうに眉をひそめた。
「まあそういうことになるな」
「それを利用するんだよ」
「利用って?」
「いいか、俺が残りのアルファを順番にベッドに誘い込むんだ」
「おい、何言ってるんだ!?」
橘が血相を変えて叫んだ。張爺さんも目を見開いている。
「落ち着けって。もちろんフリだよ。本気でヤるわけじゃない。あたかもヤッてるように映像で見せてやるんだ。それで視聴者を混乱させる。俺は誰にでも気があるようで、最後まで観客は俺が誰を選ぶかわからない」
「なるほど……それで?」
ようやく莉央の発言の意図が理解できたようで橘は先を促した。
「だけど俺は先にここでお前にうなじを噛んでもらって、つがいになっておく。そうすれば他のアルファにはフェロモンが通じないし、安全だろ?」
そして、莉央との行為中に他のアルファが現れてお互い殺し合いをするように見せかける。そうやって一人ずつアルファが『死体役』になり、最終的に十一日目の儀式には橘しか残らないようにすればいい。
「そうすりゃ、気味の悪いかごめかごめの儀式を回避できるだろ?」
「――たしかにな」
「問題はこの作戦をいつどうやって皆に知らせるかだ。だって、屋敷内では監視カメラが常に俺たちを見てるんだからな」
「俺と莉央がこの洞窟に入ったことも既に白羽会長たちには筒抜けだ。あまり長居すると怪しまれそうだな」
「うーん、たしかに」
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