【Day5】消えた抑制剤

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【Day5】消えた抑制剤

 前日と同じように五人のアルファにより交代で見張られながら莉央は眠りに就き、翌朝を迎えた。  発電機が壊されてしまったため、今後は電気が使えない。  冷蔵庫や冷凍庫の中は常温に戻りつつあり、莉央が予め作り置きしたものの多くは無駄になりそうだ。幸いガスは使えたので、解凍されてしまった冷凍の肉や魚は今日中に火を通してできるだけ食べてしまうことにする。  地下の食料品庫には缶詰やレトルト食品なども常備されているため、食糧に困ることはなさそうだ。  莉央はこれまで通りに目玉焼きや生ハム、サラダなどの食事を用意した。生ハムは原木で置いてあったので常温保存でこの滞在中は問題なく食べられる。  来訪当時は七人いた客は現在五人。全員交代で莉央の見張りをしているのもあり、寝不足のようだ。殺人が起きたことによる心労も相まって皆それぞれに疲れた顔をしていた。 「今日はまた島を捜索するのか?」  岩崎医師が誰にともなく尋ねる。 「これ以上探しても無駄じゃないでしょうかねぇ」 「島中探しても無駄なら、体力を温存したほうがいいよな」  乃木教授の答えにめずらしく岩崎医師も同意見のようで、二人は頷きあっている。  ここ数日、島中を歩いてもなんの成果も得られずに誰もが捜索に対してモチベーションを失いつつあった。そんな中、滝川社長がハムにかぶりつきながら言う。 「俺は一人で行動させてもらう。犯人を探したって見つからないんだし、残りの日数は限られてる。ゲームの方に専念させてもらうよ」    全員彼の方を見た。岩崎医師が滝川社長をやんわり止めようとする。 「一人で行動するのは危ないんじゃ?」  しかし社長は首を振った。 「グループで島を探しても何も見つからない上に、結局二人も殺されたじゃないか。日中なら大丈夫だろう」 「それは、そうかもしれないが――」  しばし沈黙が訪れた。  莉央は皆が食べ終えた食器を配膳ロボットに乗せて下げさせると、コーヒーを淹れて全員に配る。すると橘が立ち上がった。 「莉央、何かフルーツはある?」 「バナナとりんごならあるけど、剥いてこようか?」 「俺が剥くよ」 「え。俺やるけど?」 「いや、莉央は座ってコーヒーでも飲んでて」  正直この男たちと食卓を囲みたくはないが、今日のスケジュールを聞かないわけにもいかないので自分のカップを持って席に着く。  アルファたちは島内にいる殺人鬼を探すのか、それはさておきゲームを進めるのかで意見が割れていた。 「僕は、むやみに島内を探すのは時間の無駄だと思いますね。このような狭い島なのに、もう何日も歩いているけど何も見つからないんだし」  乃木教授の発言に対して警部が「たしかにそうだが」と返す。「隈なく探したとはいえない。どこかに俺たちが気付いていない箇所があるんだよ。とにかく犯人をまず捕らえて安全を確保しないことには夜も安眠できないじゃないか」  これに対し岩崎が提案する。 「じゃあ犯人探しをしながら、ゲームをすればいいんじゃないのか? 暗証番号を探すなり、抑制剤や発情促進剤を探すなりね。あ、俺は別に暗証番号や薬なんかは求めていないよ、リオ。――俺はそんなもの抜きで君を口説くつもりだからね」  急に岩崎がこちらにウィンクしてきた。早朝なのにしっかりとセットされた髪に、何着洋服を持ってきたのか知らないがブランド品の服を日替わりで着ている。皆疲れた顔をしているのに、この男はまだ元気そうだ。 「朝っぱらから気色悪いこと言うなよ」 「酷いなぁ~! でもそういう辛口なところも俺は好きだよ」  彼の方からバニラ風味のフェロモンが漂ってきて莉央はコーヒーカップを口元に持ってきてガードする。 (――まじで頭おかしいなこいつ……) 「岩崎先生は俺と同じくゲームに積極的みたいだね」  滝川社長が優雅にコーヒーを飲みながら言う。こちらはベージュ・ブラウン系で揃えた数着の洋服をうまく着回していて、こちらのほうがよっぽどおしゃれに見えた。 「俺はリオくんとはこの島で会ったばかりで岩崎先生や乃木先生ほど親しくはない。だから利用できるものは探し出して交渉の材料にさせてもらう。だけど、俺たち相性は悪くなさそうだよね? 無理に誘ったりしないから安心して」  今度は滝川社長がこちらに向かって微笑んだ。彼からはやはりどこかでかいだことのある香りがする。鼻通りが良いベルガモット系の香りだ。 (いよいよ皆ゲームに集中し始めたってわけか)
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