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【Day6】かごめ歌の夢
莉央はベッドに入り、警部から聞いた話を頭の中で繰り返し考えていた。
(奥さんと子どものために仕事を辞める――か)
自分の父親である白羽功一郎にとっては考えもつかないことだろう。あの男は世界中にオメガの愛人が何人もいて、あちこちに隠し子がいるって話だ。
莉央はその中の一人でしかない。
存在すら忘れられていると思っていたのに、こうして招待されて初めて父から認識されているのを知った程だ。
しかし、彼が遺産をただで分けてくれるわけもなかった。
(何を考えてこんな島に人間を集めたんだ? 実験でつがいにさせて何になる?)
これまでに既に二人が死んだ――。矢部と名乗って来訪した深山栄犀。彼はこの島の『トリ』について知っていた。
なぜ?
そしてホストクラブのマネージャーたつみはなぜあんな武器を持って島へ来た――?
なくなった薬は一体誰が盗んだのか? 橘はなぜ莉央の名が刻印された抑制剤を持っていたのか?
ヒートをなんとか薬で抑えているという最悪のコンディションなのに、頭を使いすぎたせいで莉央は夢を見た。
暗い部屋の床に莉央は膝を抱えて座っている。すると、莉央の周りに男たちが集まってきて、取り囲まれた。彼らは手をつないで莉央の周りをぐるぐる回り始めた。
先日映写機で見た円形がくるくる回るアニメーション映像のように、真ん中の莉央を囲んで男たちは回る――そして男たちの低い歌声が聞こえてくる。
『か~ごめかごめ、籠のなかの鳥は、いついつ孕む……』
男たちが次々に目の前を通り過ぎて、また後ろから前に回ってくる。何者かに後ろから頭を押さえつけられ、莉央は顔を膝にくっつけた。何も見えなくなる。男たちの足音と、気味の悪い歌声だけが耳に響く。
『夜明けの晩に、つるとかめがつがった。後ろの正面……だあれ』
せわしなく莉央の周囲を回り続けていた男たちの足がピタッと止まった。莉央はおそるおそる首を動かし、自分の後ろを振り向いた。
そしてそっと目を開け――……。
◇
「……っ!?」
いつの間にか眠り込んでいたようだ。
夢の中で自分の後ろに立っているのが誰か見る前に、莉央は寝室のベッドの上で目を覚ました。
「なんだ……夢かよ」
(夢だったとしても、後ろに立っていたのは誰だったのか――)
今何時だろうと思ってナイトテーブルの時計を見る。あと十分で五時のアラームが鳴るところだった。
(眠いけど、二度寝する時間はないな)
そう思って何気なく窓を見る。すると、レース素材のカーテン越しに窓のすぐ外に誰かが張り付いてこちらを覗いているのが見えた。
「ひっ、うわぁああ!」
莉央が思わず叫び声を上げると、すぐに管理人室側からドンドンとドアを叩く音と「どうした!?」と警部の声がした。
莉央は内側から鍵を開けて、転がり出る。
「そ、そこに人が! 窓の外に……!」
「何?」
大隈がずかずかと寝室に入っていき、窓を見た。
「誰もいないぞ」
「いたよ、いたんだ!」
日が昇る前で真っ暗なので誰の顔かはわからなかった。だけどたしかに人間だった。
「落ち着け、わかったから。滝川社長、君は他の奴らが部屋にいるか確認してきてくれ。俺は外を見てくる」
「わかりました。リオくん、一人じゃ危ないから一緒に来て」
莉央は一瞬迷ったが、警部をちらっと見ると無言で頷いたので滝川社長と共に管理人室を出た。足音を忍ばせ、まずは一階の橘の部屋へ行く。
明け方五時頃で、屋内はまだ暗いから滝川社長が懐中電灯を持っている。社長が「橘くん」と軽くノックした後小声で彼を呼ぶ。それでは起きなかったので、もう少し強めにノックしようとしたときだ。内側にドアが開いた。
「どうしました、こんな早い時間に?」
眠そうな目に濃紺のスウェット姿の橘が姿を見せた。
「今リオくんの寝室の窓から不審な人物の影が見えてね」
「なんですって?」
「それで、部屋に不在の人間はいないか確認してるんだ」
「俺は寝てました。すぐに着替えて行きます」
「じゃあ俺たちは二階を見てくるよ」
「着替えたら合流します」
その後全員の部屋を回ったが、乃木教授も謹慎中の岩崎医師も部屋で寝ていて、小細工をして外から戻って来た様子はない。
「リオくんが窓の外で見たのは、殺人犯だったかもしれないな」
「ってことはクマが危ない……?」
そこへ着替えた橘が現れた。
「俺が警部を探しに行くから、莉央も着替えてこい。滝川社長、莉央を頼みます」と外へ走り出た。
他のメンバーも急いで着替えを終えると、玄関先で莉央の部屋を見張っていた滝川社長と合流して外へ出た。
◇
その後全員で島内を探した。しかし日が昇って明るくなっても、警部の姿はどこにも見当たらなかった。
「何か見つけたか?」
「いや、何も……」
「そんなわけないのに! さっき出ていったばかりなんだぞ」
「もしかしたら刑事さんは隠し通路を見つけたのかもしれない。帰ってくるのを待つしかないですよ」
その場にいる誰もが絶望的な気持ちで屋敷へと戻った。
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