【Day7 大隈視点】大隈警部の事情

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【Day7 大隈視点】大隈警部の事情

 翌日大隈は乃木教授と二人で神社を調べに行くことになった。  それ以外のメンバーは屋敷に残り、体調の悪い神崎の代わりに掃除や料理をしつつ建物内に隠された抑制剤を探す予定だ。  神崎は橘が自分の抑制剤を盗んだと思っているようだが、大隈の勘ではそれはないとみている。大隈が観察している限り橘はいつでも神崎のサポートを欠かさない。また、具合の悪くなった神崎と二人きりになる場面はこれまでにも多々あったが、橘が神崎を襲ったりすることはなかった。  一昨日莉央が岩崎に襲われかけてヒートしたのを助けたときですら、彼はうなじを噛むどころか性行為自体を思いとどまったという。  ここまで神崎の意思を優先して行動している彼が抑制剤を盗むとは思えなかった。  大隈は乃木と共に玄関を出ると、西側の崖へと登っていく。 「ここからは大体見えるな。桟橋も、屋敷も、向こうの森も」  島の西側の標高が最も高く、島全体を見渡すことができた。大隈は崖に立ち、ぐるっとひと回りして海を眺める。 「船でも通ってくれれば助けを求められるんだがなぁ」 「そうですね。ここに石や木でSOSの文字でも作ってみたらどうでしょう?」 「ああ――だが今日は神社を先に調べよう」  崖の端から南に向かい、木々が生い茂る小径を歩いていくと、ほどなくして石の鳥居が現れた。見上げると額束(がくづか)に『香后雌(かごのめ)神社』の文字。その奥の苔が生えている階段を大隈は乃木と共に昇った。数段の短い階段の先に、木製の祠があった。切妻屋根に観音開きの扉というよくあるタイプで、しめ縄がかかっている。石段は苔むしているが、祠自体はそれほど古いものではなさそうで、しめ縄も最近付け替えられたのか新しそうだ。  乃木は祠の後ろまで回り込んで左右前後を観察し始めた。大隈は神仏のことはよくわからないので、周辺の林を探ってみる。祠の周囲は樹木に覆われて薄暗く、一人で来たいとは思えない雰囲気だ。ざっと見たところ祠の他に建造物や置物の類はないようだ。 「うーんやっぱり趣がありますよねぇ」  乃木は生き生きとして、しめっぽい空気の中でわざわざ深呼吸している。 「何か手がかりは見つかりそうか?」 「うーん、鶴と亀モチーフのものがあるんじゃないかと思ったんですが……六芒星のマークがあるくらいで特には見当たらないですね」 「ろくぼうせいって何だ?」 「上向きと下向きの三角形をこう、重ね合わせたいわゆるダビデの星と呼ばれる形です」  乃木は説明しながら木の棒で地面にマークを書き記した。 「この形がいわゆる籠の網目と同じなんで籠目紋なんていう呼び方もされますね。魔除けの意味があるので、国内ではいくつかの神社でこのモチーフが使われてます」 「かごめもん、ねぇ……」 (かごめかごめ……か。気味の悪い島だな) 「だけど、このマーク以外には特にゲームに関係ありそうなものは見当たりません。秘密の通路の入り口でもあるんじゃないかって思ったんですが」 「もしかして、祠の中に何か入ってるんじゃないのか?」 「え、中ですかぁ?」  乃木教授は目を丸くした。 「開けて見てみようぜ」 「え、でも……」  大隈だって普段ならそんな罰当たりな行動はしない。しかし、今は人命がかかっている。 「祟られたりしないかなぁ」なんてブツブツ言っている乃木を無視して、大隈はしめ縄を取り外して木の扉を開けた。 「あれ、これだけですか!?」  中には二枚の紙垂(しで)を木の棒で挟んだ御幣(ごへい)と、お神酒しかない。乃木教授はがっくりと肩を落とした。 (くそ、酒しかないじゃないか) 「予想がはずれました。すみません警部さん、この神社には何もなかったですね……」 「仕方ないさ。そうだな――西側の海岸の方も少し探してみよう」  大隈は乃木と連れ立って森を抜け一度西側の崖に戻り、屋敷前の坂道を下っていく。西側の海岸は砂浜になっている。先日はその先の桟橋に矢部の遺体が残されていたが、今日は反対側――さっき海を見渡していた崖の下を見に行くことにした。  当然そこも既に一度は探索した後だったが、今日はいつもと様子が違う。  干潮に近い状態で、以前見た時より水位が下がっていたのだ。 「あれ、こんなに岩が出てましたっけ?」 「いや。以前来たときは満潮近かったんだな。この岩は海水で見えなかった」 「警部さん。この岩、まるで亀の上に鶴が乗ってるみたいに見えません?」  平べったい餅のような形の岩の上に、細長い岩が乗っている。満潮のときには、上の細長い岩しか水面に出ていなかったからそうは見えなかったのだが――。 (たしかに、鶴と亀みたいだな――この先生、すっとぼけてそうに見えて意外と周りを観察してやがる) 「あの歌――鶴と亀が滑った後ろの正面だあれ……。もしかして、あの岩の近くに秘密の通路があるんじゃないでしょうか!?」  乃木教授が自分の思い付きに目を輝かせる。 「たしかに、そうかもしれん。もう少し潮が引けるまで待とう」
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