【橘視点】フィルムの続き

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 二人は食事の途中で応接間を出て、書斎へと赴いた。まだ日が高い時間なので、カーテンを閉める。  薄暗い部屋で滝川社長がフィルムを映写機にセットした。 「その部分まで早送りするね」  これで見るのが三度目になる白羽会長の映像。それを早送りで進め、最後は画面が真っ白になった。それでもまだ早送りを続けると、パッと画面が暗くなった。そこで滝川社長が通常の速度に戻す。 「ここからだ、見てくれ」  廣明は身を乗り出した。 「これは……」  それは白黒の映像――よく見ると赤外線カメラの映像のようだった。暗い室内を写したその映像を見て廣明は目を見張った。 「この屋敷のホールじゃないですか!」 「そうなんだよ」  滝川が「来たぞ」と映像を指差す。 「あっ……!?」  屋敷のホールに複数の男たちがやってきた。彼らは不思議な事に全員がおそろいのローブのようなものを着ていた。 「な、なんだこれ……」  ローブの男たちの陰に隠れてよく見えなかったが、真ん中に一人華奢な男がいた。 「おい、なんでこの人だけ裸なんだよ?」 「続きは君が見てくれ、俺はもう見てられない」  滝川は映像に背を向けた。廣明は仕方なく一人で続きを見ていく。すると、全裸の男性が男たちの手で床に座らされた。膝を抱えるようにして、頭を伏せる。そしてその周りを取り囲むようにして六人の男が手をつないで立った。 『かーごめかごめ……』  音はかなり荒くて雑音だらけなせいで聞きにくいが、低い声でかごめ歌を唄っているのが聴こえた。 「な、なんだよこれ……どうなってるんだよ。こいつら何してるんだ」 「そのまま最後まで見てくれ」 (くそ、こんな気味の悪い映像を一体何のために?)  男たちが止まって、真ん中の男性が何か言ってから後ろを振り向いた。その後ガサガサという雑音にまぎれて悲鳴が聴こえた。怯えて逃げようとする全裸の男性――明らかにオメガ――を男たち――アルファ――が押さえつける。そして全裸のオメガ青年の真後ろにいたアルファ男性がローブを脱いだ。 (なんだこれ、なんだこれ……!?) 「おい、やめろ!」  廣明は思わず叫んだが、それが映像の向こうに聞こえるはずもない。その後目の前で行われた行為は凄惨の一言だった。一人の青年が代わる代わる周りの男に蹂躙される――。悪夢のような狂った儀式だった。 「これ……これが、乃木先生の話していた……かごめかごめ?」  最後まで見終えたところで、滝川が振り返って映像を止めた。 「ああ。子どもの遊びがあるって話してた。その内容のままだろう」 「だけどこんな、おかしいだろ!」 「もう既に十分おかしい状況に俺たちは巻き込まれている」  滝川が廣明を見つめた。 「これを見て、俺はこの島で行われてるゲームの最終的な目的がこういうことなんだとわかった」 「あんた……この映像を見ていたのに、なんでゲームを中止しようとしなかった? こんなことに莉央が巻き込まれるのを黙って見てるつもりだったのか!?」 「すまない……。悪かった。最初はリオくんのこともただの他人としか思えなかったし郁人(いくと)――俺のパートナーのことをどうしても助けたかったんだ。本当にすまない……」  滝川は憔悴しきった表情で頭を下げた。病気のパートナーのために冷徹になろうとした滝川だが、結局黙っていられなかった。元々非情な人間ではないのだろう。 「リオくんと話したり一緒に過ごすうちに、彼がこんな目に遭うのを黙って見過ごすことはできないと思うようになったんだ。彼が困ったとき君を見つめる視線――それにこの間岩崎先生に襲われて以来の怯え方――。それを見ていたら、彼が郁人の姿に重なって、もし橘くんが俺でリオくんが郁人だったらって考えるようになった」  滝川は震える声で言ってゆっくりと首を横に振った。 「郁人のことはもちろん助けたいと今でも思ってる。だけど、もう何人も人が死んで……その上リオくんをこんな目に遭わせないともらえない金ならもういらない。こんな汚い金で助かっても、きっと郁人は喜ばないだろう」  二人はしばし無言で佇んでいた。 「この映像のことは、俺以外の誰かに話しましたか?」 「いいや。警部にもまだ話していない。橘くんがリオくんのことを一番気にかけてたから、まず君に話して判断を仰ごうと思ったんだ。最近警部がリオくんを疑い始めたのも気になって」  警部の様子がおかしいことに気付いていたのは廣明だけではなかったようだ。 「この件は二人だけの秘密にしましょう。こんなのが莉央に知られたらまずい」 「ああ、わかったよ」
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