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香后雌島に到着
「見ろ、島だ」
突然声を掛けられて莉央は過去の追憶から現実に引き戻された。
大隈が指した方向へ目を凝らすと、広い海の向こうに陸らしきシルエットが浮かび上がっている。
(今からあの島へ――?)
「お兄さんたち、腹減ってるだろ? 向こうに着いたら食べ物はたくさんあるから」
船を操縦している日焼けした50代くらいの男がこちらに話しかけてきた。
(びっくりした……。誰?)
「あ、俺のことは畑中と呼んでくれ。この島の管理を任されてるんだ」
畑中はよれよれのTシャツに年季の入ったカーゴパンツ、首にはタオルを巻いていて一見すると漁師のような風体だ。
「詳しい話はあとでするけど、オメガのお兄さんはこれから忙しくなるよ。なにせ、大勢の客をもてなさないといけないんだからね」
なぜか畑中は莉央がオメガだと知ったような口ぶりで話してくる。
(客をもてなすって――どういうことだよ?)
何もない海の上にぽっかりと浮かぶ小さな島。莉央の足でも数時間もかければ歩いて一周できそうなほどの広さに見えた。ボートが桟橋に着岸し、先に船を降りた畑中がロープを括り付ける。
「さあ、到着だ。香后雌島へようこそ」
「かごのめじま……?」
「ああ。君らにはここで十二日間過ごしてもらう」
「はぁ!? こんなとこに十二日間もいて何するんだよ」
さっきまで快活に笑っていた畑中が憐憫のこもった目で莉央の顔を見つめた。
「莉央君は選ばれたんだ、香后雌島の”トリ”に」
しかしそれはほんの一瞬のことで、彼はすぐに浅黒い顔に笑いじわを刻んだ。
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