【Day8】張爺さん

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【Day8】張爺さん

「莉央、無事でよかった」 「じ、爺さん!? なんでこんなところに――」  声の主は莉央が子どもの頃から居候をさせてもらっているラブホテルのオーナー、(ジャン)爺さんだった。  莉央が暴れるのをやめたので、老人は莉央を掴んでいた手を離した。立ち上がって歩く足音がする。その後ほどなくしてパッと辺りが明るくなった。彼がランタンの灯りを付けたのだ。ずっと暗い中にいたので目がくらむ。  地面に座り込んだまま何度か瞬きしてようやく目が慣れてきた。周囲を見渡すと、連れ込まれたのは洞窟の中でも人工的に掘られたと思しき空間だった。机や椅子、簡易ベッドのようなものが置かれていて、ここがそれなりの期間の滞在を見込んで造られた場所だとわかる。机の上には、洞窟に不似合いなノートパソコンやモニターまでがいくつも並んでいた。 (ここは一体……?) 「莉央、よく聞け。わたしはお前のことを助けに来た」 「え……?」 (なんで俺がここにいるってこと、爺さんが知ってるんだよ? 爺さんはどうやってここに来たんだ?) 「いいか? 重要なことだからよく聞け。この島で唯一、この洞窟内にだけ監視カメラがない」 「ちょっと待ってよ、なんで爺さんがそんなこと知ってるんだよ!」  突然身内の張爺さんが現れただけでも理解不能だというのに、なぜ彼がこの島のことを知ったような口ぶりで説明してくるのか――。 「混乱するのはわかる。しかしもう時間がないから手短に話す。ずっとお前を騙していてすまないが、わたしはエルブランシュの幹部社員だ。白羽会長の指示でお前たち母子のことをずっと監視していた」 「はぁ……!?」 (爺さんが、エルブランシュの……幹部社員?) 「なんだよそれ……。嘘だろ?」  とても信じがたい。 「つまり、父さんの部下ってこと?」 「そうだ」  物心ついてからずっと共に暮らしてきた家族のような存在の彼が、まさか自分を捨てた父の指示で動いていただなんて――。 (だけどそういうことなら、俺の情報が父さんに筒抜けで人間関係まで全て把握されていたことも頷ける……!)  莉央はここ最近自分の身の回りで起きた様々なことを思い返す。この島へ来る前にバーで会ったアルファの男――あの日あそこで人と会うことを張爺さんには話していた。岩崎との訴訟のことも、乃木教授のストーキングのことも、当然ながら大隈の取り調べのことも――。  過去にハマっていたタレントから運命の相手まで、張爺さんから父に伝わったとしたら全ての説明がつく。  気持ち的に受け入れがたいが、張爺さんはただのお節介な老人ではなかったということだ。 「じゃあ、爺さんは俺がここに連れてこられるのを前から知ってたってこと?」 「――そうだ。しかしわたしはさっきも言ったがお前の味方だ」 「なんでだよ……? じゃあどうしてこんなところに来る前に止めてくれなかったんだよ!」 「白羽会長の発言は絶対だ。覆すことはできん。わたしはせめてお前を無事に帰してやりたくて、この島に来てからずっと見守ってきた」 「見守る? だけどそんなこと言ったって、もう既に三人も殺されたんだぞ? この島は全然安全じゃなかったんだ! 今もこの洞窟に、殺人鬼がいるかも――」 「莉央。三人を殺したのはわたしだ」
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