妻の嘘

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***  業務スーパーで買ったパッタイを食べた時、美希は「これは蒸し暑い所の食べ物だね」と言った。辛くて水と交互に、口に麺を運んでいた。  どうしても食べきれなかった残りは、僕が引き受けた。  冬に食べるパッタイは、場違いで少し申し訳ない味だった。じわりと額に滲む汗を拭う。  皿を片付け終えた時、通信アプリの通知に気がついた。「あ」と思わず声が出る。美希のお母さん。あれ以来、全然連絡を取っていなかった。妻の生前は良くしてもらってたのに。  最近は無理やり美希を思い出すように掻き立てられている気がする。返事を打とうとして、手が止まった。そのまま通話ボタンを押す。4コールほどで「もしもし」と声がした。 「ーーご無沙汰してます」  できるだけ感情を殺した挨拶は、少し冷たく聞こえたかもしれない。すぐに少しトーンを明るくして「お元気ですか?」と続けた。  
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