妻の嘘

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 その頃の内容は仕事のことが多かった。はっきりとは書いていないが、どうやら好きな上司もいたようだ。やたらと出てくる「山口さん」。  季節の移り変わりや、時々食べた美味しいものが、たくさんの写真と共に載せられていた。  僕と出会った頃のこと。『音楽仲間から告白された!』。それまでどこかグレー掛かった文面が明るくなっている気がした。 『前からかっこいいと思ってた小山さん』と書いてあった。そんなこと、聞いてなかった。  付き合ってから結婚までは数ヶ月だった。その間の忙しさも、画像と短い文章で綴ってあった。手作りの招待状やブーケ。オーダーした指輪を取りに行った時は、雨が降って相合傘が嬉しかった。ドレスは美希がネットで安く買ってしまった。『洋ちゃんとしては、友人から聞いていた《長い長い買い物》に付き合う覚悟を決めていたのに、肩透かしを喰らった』って言ってた、と書いてある。  そうだったよな、と懐かしくページを進めた。  僕がスマホを見ていると、ゲームに飽きた美希がくっついてきて、犬みたいに腕の中に頭を突っ込んでくることがよくあった。そんなことをふと思い出した。  勝手に日記を読んでいる僕に腹を立てている照れ臭そうな美希と、一緒に文面を見ている気がした。  時間が経つのも忘れて、僕は7年分の日記に没頭していた。結婚までの心の隙間を文字で埋めていたのかと思うくらい、年月が進むにつれて更新速度は落ちていた。  でも、病気が発覚してからはまたページ数は増えていく。
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