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とある遠い世界の物語。 その星は人間以外にも、大陸には獣人にドワーフが空には鳥人や龍人。そして海には人魚といった「亜人」と呼ばれる多種多様な特徴を持つ者達が共存をしていました。 これはそんな星が舞台の、とある若い人間と人魚の話。 広大な敷地を持つ古い豪邸。その一室の中央に設置されているのは巨大な水槽で、中を悠々と一匹の人魚が泳いでいた。 日に焼けることのない白い肌を飾るのは、青い髪に青い瞳。そして透き通る青色い鱗。 見る人々を虜にする優雅な泳ぎではあるものの、その若い男の人魚はやせ細っており、尾鰭は短く観賞用と呼ぶには華やかさに欠けるほど遠い。 さらに『人魚にしては顔も地味だな』と愛好家ならば口を揃えて酷評するだろう。 しかし、この人魚はペット用でも観賞用でもなかった。 「ねぇー、ちょっとは何か言ってくれる気になった?」 水面から顔を上げると無愛想な人間の男を見た。 それは月のように金色の髪と霞色した不思議な色の瞳、鍛えられた肉体を持った若い雄だ。 人魚の俺からしてみても思う、絶対"番い"に困らないと! 「もう!こっちが笑顔で話しかけてんだぞ、ちょっとは愛想よくしてくれたっていいじゃんか、ケチ~!」 文句を言えば不満は伝わったみたいだ。人間は固い仏頂面のままでも水槽へと近寄ってきた。 「××、×××××。××××」 「うーん、ごめん。やっぱりなに言ってんのか分かんないや」 けどさ、いまいち言葉は伝わらないけど誰かとコミュニケーションをとって気晴らしがしたいよ。 やる事もなく、ぐるぐると広い水槽を泳ぎ回るのは退屈でしょうがない。 「なぁ、人間って生まれた時から名前があるんだろ?いいなぁ、なんてゆうのか教えてよ?名前」 「×××、×××」 「んんーーー」 頑張って復唱しようにも人間の言葉は発音しずらい。 がっくりと肩を落とせば、すまなさそうにされてしまった。 「いや、アンタが悪いわけじゃないよ。悪いのは俺を攫ってきた悪党だもん」 なんでこんなことになったのかというと、俺と人間との出会いはだいぶ遡る。 俺はこの海の育ちじゃない。 もっと深くて、天候の荒れやすい海で仲間たちと暮らしていたんだ。そして人間たちの住処だって漁村と呼ばれる集落みたいなところだった。 その国は獣人様が偉くて人間も人魚も楽な生活じゃなかったから、種族関係なく協力してコミュニケーションだって取り合ってた。 それがある日の晩、"人魚狩り"に襲われてしまった。 見たことのない巨大な船に風貌の男達。彼らは大声で異国の言葉を吠えて俺達を執拗に追い回した。 そして、 (ぎゃぁあああ!!やめろ、離せ馬鹿!!お前らなんか人喰いザメの餌になっちまえ!!) どんな叫びも抵抗もむなしく無意味だった。 幸いなのは奴らに捕まったのが俺だけだったことと、俺を連れ去った巨船は大嵐に見舞われ沈没したこと。 やーい、やーい!ざまぁないね!! 「………けど、ここは一体どこだ??」 ポツンと大海原に投げ出された。 故郷よりずっと温かい海水の温度。知らない海のにおいと空気にはさすがに戸惑った。 視線のずっと先には陸地と、そこにそびえ立つ人工物が見えるけどー… (とりあえず行くしかないよな、他に何も見えないし…) 意を決して泳ぐことしばらく、人魚の前には漁村どころか見たことのない立派な建物がうつった。 さらに、 (・…あ、あれは!?) 「ね、ねぇ!!はじめましてー?」 「――――!!」 ここの海にも人魚達はいたけど、会ったときはぎょっとしたなぁ 皆んな黄金色に赤や緑、橙といった派手な色の髪や尾ひれを持っていて、顔立ちもすごくくっきりしてて俺はようやく遠い国に連れてこられたことを知った。 「***!!******!?」 よそ者の俺はとにかく怒られた威嚇された。 方言とかって問題じゃない。そもそも言葉が通じなかったんだから怪しまれてもしょうがない。 身振り手振りでなんとかしようとしたけど、彼らに受け入れてもらえず、だからといって帰れない俺は… ずっと浅瀬の方に追いやられてしまった。 (いいや、弱気になるな!!いさせてくれるだけマシだ!) それこそ人魚の群れのリーダーが許してくれなかったら、俺は完全に追い出されていたはずだ。 心細くて寂しかったけれど仕方がない。だって帰り方がわかんねぇんだもん!! それにここの海は澄んでいて海藻も豊富だ。 小魚と戯れる、昼は海岸で日向ぼっこする。 それだけで充実していたんだ。 でも…… 「×××?」 気がつくと水槽に設置された足場をあがり、俺のすぐそばまできてくれていた。 人間が、どうした?と首を傾げている。 もしかして心配してくれてんのか? 「アンタも飼うんなら、もっと綺麗でおしとやかな人魚が良かったんじゃないの?」 「×××、××…」 「あぁそれ!!」 男が水面に持ってきたのはサクサクした食べ物だ。 はじめて口にした人間の食べ物がこんなに美味しいとは思わなかった。 すぐ近寄ってあーん、と大きく口を開ければ人魚の無防備さを男は笑った。 「んん~、おいしい!」 この人間は好きだ。 見た目ほど全然怖くないし、美味しいものもくれる。 どうせ帰れないなら、ずっとここに置いてくんないかな…
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