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その様子から口を挟まないと悟った玉鈴は、顔を真っ青にして立ち尽くす宮女へと視線を投げた。
「すみません。お待たせしました」
「い、いえ」
「立ったままでは辛いでしょう。そこに座ってください」
空いてる椅子を進めるが宮女はふるふると首を振った。
「このままで大丈夫です。お心遣い、ありがとうございます」
震える声で宮女は答える。
「あの、それで、えっと、どうして私は呼ばれたのでしょうか……?」
宮女の帯を背後から琳の侍女が引っ張った。驚いた宮女は「きゃ」と短い悲鳴をあげ、背後を振り向く。
「何ですかその言葉遣いは。無礼ですよ」
侍女は鋭い目つきで睨み付けた。
「貴女は柳貴妃様の質問に答えればいいだけです」
「す、すみません」
宮女はぺこぺこと何度も頭を下げた。
大きな瞳が涙で揺らめき、顔を蒼白にさせ、許しを乞う様子を侍女は侮辱するように鼻で笑う。
己の侍女の行動を琳は咎めず、宮女の鈍臭さに呆れているようだ。その隣では翠嵐が両手を空中で彷徨わせ、止めるべきか迷っていた。
「——」
その光景を見て、玉鈴は開きかけた口を閉ざした。ゆったりとした生活を好むためか他者に対してもあまり感情的にはならないがこの侍女には微かな苛立ちを感じ、眉根を寄せる。
「おやめください」
気がついたら怒りが滲む声で叱咤していた。
「下がりなさい。私は彼女に様があって呼んで貰っただけで、叱るために呼んだわけではありません」
射るように睨みつければ侍女は視線を左右に彷徨わせ、狼狽する。相手が柳貴妃だと理解していても矜恃が高い侍女は簡単には折れたくないらしい。泣き出しそうな顔になりながらも真っ直ぐ、玉鈴を見た。
「し、しかし」
「……私の機嫌を損ねる気ですか?」
あまり相手を脅すことはしたくはないが、この侍女相手には強気でいかなければならないと悟る。語尾を強めると侍女は戸惑ったように俯いた。
「い、いえ」
「下がりなさい」
語気を鋭くすれば侍女は「失礼しました」と早口で言うと房室から出て行った。
その長裙が見えなくなると玉鈴はうな垂れた。自身の中に燻る苛立ちを抑えるように深く息を吐き出す。
玉鈴は「怒る」という行動が苦手だ。相手が失礼な態度をとったり、己の部下が手をあげられれば怒りを覚えることもある。だがそれに対して口に出したり、手をあげたりはあまりしない。怒りを制御できず、頭が沸騰しそうになり頭痛や目眩がするからだ。なにより、とても疲れる。疲れることはあまりしたくはない。
深く息を吸い込み、吐き出し、鼓動が、体温が平常に戻ったところで玉鈴は面をあげた。
冷静になって周囲を見つめれば翠嵐や琳、他の侍女らは困惑したように玉鈴を見ている。その視線に気恥ずかしさを覚え、頬を微かに染めた時、翠嵐が口を開く。
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